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  • 執筆者の写真Nakamura Mineo

月経異常・帯下、不妊症、不育症

更新日:2020年6月3日



寺師 睦宗   日本漢方医学研究所/監事

月経異常

本日は月経異常と帯下について申し上げます。月経異常としてあげられているものには無月経,代償月経,早発月経,稀発月経,過少月経,頻発月経,過多月経,月経困難症などであります。昔は無月経は暗経といい,代償月経は逆行または逆経といいました。月経は月水,月信,天発,経行などの別名があります。 無月経は局所的原因として発育不全,卵巣の内分泌障害,一般的原因として栄養障害を伴う諸疾患,機能的原因として精神の激動などがあげられます。代償月経は周期的に鼻, 胃,腸,肺などより出血して,月経としての出血はありません。早発月経は卵巣機能の早期開始や関係内分溜、臓器の腫瘍により,稀発月経は卵巣機能や子宮発育の不全により,頻発月経は卵巣の機能異常,子宮筋腫,パセドウ病や心臓病などによって起こります。月経困難症については,今回は省略いたします。

使用する薬方名

当帰芍薬散:子宮発育不全,卵巣の機能障害,子宮粘膜の萎縮などによって起こった無月経や月経閉止で,貧血気味のものに用います。 加味逍遥散:一般的原因による月経閉止で,体質虚弱,やや貧血状あるいは結核性体質のものに長期間用います。 十全大補湯:全身の高度の疲労,長期の晴乳, 分娩による多量の出血などのために起こった無月経で,貧血,衰弱のものに用います。 桂枝茯苓丸・桃核承気湯:子宮炎の後,あるいは子宮腔の癒着があって下腹部の抵抗圧痛を認め,瘀血(ふる血)のある無月経に用います。便秘するものには大黄を加えます。もし症状が激しし上衝(のぼせ), 頭痛,顔面紅潮などのあるものには桃核承気湯がよいです。月経過多症や代償月経の際にも本方が最も多く用いられます。 大黄牡丹皮湯:本方も無月経のため瘀血〈ふる血〉が下腹部に充満して,腹満の著しいときに用いてよいことがあります。 大承気湯:承気は順気の意味があり, 気を順らして月経の通じることがあります。腹部が膨満して力あり,便秘がちのものに用います。

柴胡桂枝湯.胸脇苦満の証があって, 腹直筋の緊張している無月経に用います。体質が強壮で,胸脇苦満の証が強いときは大柴胡湯を用います。 当帰四逆加呉茱萸湯生姜湯:冷え症で,脈の沈んでいるもの,寒冷により腰痛, 下腹部の疼痛などを起こすものが経閉を起こしたとき,本方で温めるとよいことがあります。

半夏厚朴湯・香蘇散:精神感動,驚怖,悲しみなどによって起こった経閉に用います。想像妊娠で経閉を起こしたときにも用います。 抵当丸:下腹部に抵抗があり,瘀血のために物忘れをし,小便自利する無月経に用いてよいことがあります。

瀉心湯(三黄瀉心湯):代償月経で衂血,吐血, 喀血などがあり,顔面紅潮して上衝,頭痛,不安などのあるものに用います。また月経過多症にも用います。 黄連解毒湯:前方と同じ状態で, 症状がやや緩和なものに平常から服用させるとよいです。また月経過多症にも用いてよいです。 芎帰膠艾湯:代償月経のため貧血気味となり, 冷え症で, 虚弱体質のものに用います。月経過多症にもよく用いられます。 四物一黄湯:妊娠かもしれないが,月経をつけたいと思うとき, 本方を試みてみるとよい。通経の効のあることがあります。 延経期方:月経を延期させる経験方で, しばしば目的を達することもあります。 附子理中湯:全身の発育の悪い,貧血している冷え症の婦人の無月経に,本方を用いてよいことがあります。

六君子湯:胃アトニー型の虚弱タイプの無月経に用いてよいことがあります。 防己黄耆湯:色白で肥満し,水ぶとりで筋肉にしまりがなく,疲れやすいという婦人で,月経が2, 3ヵ月に1回,あるいは経血がきわめて少ないというようなものに用いてよいことがあります。

症例

症例1:月経の長びく女子高校生 初潮より月経が長びき,時には1ヵ月間もあり憂欝であると訴えます。婦人科で注射をすると,一時おさえるばかりで治らない。そこで漢方で治したいと母親と一緒に来院。背の高い貧血状の16才の女子高校生。月経の前には酔ったような気持で2時間ほど休む。頭が重くて,よくめまいし,ためいきが出て背中が張るといいます。腹診すると,腹直筋が緊張していて隣上に動摩があり,下腹部に瘀血の症状を認めます。そこで下腹部の瘀血を目標に桂校茯苓丸を与えようと考えましたが,貧血して いでめまいがするという点から芎帰膠艾湯を与えました。はじめは効きめがなく,母娘ともに変わりないといっていましたが, 60日間服用しますと,効果が徐々に現われてきたと喜びます。引き続き6ヵ月間服用すると,月経が正常になりました。腹診すると,腹直筋の緊張がゆるやかになり,お腹がフックラとしてきました。臍上の動停も下腹部の瘀血症状もとれてきました。

症例2:無月経の女子大学生

高校3年ごろより月経が無くなり,日赤病院で注射しているが,自然に月経があるようにしてほしいと母親と一緒に来院。色白の中肉中背の19才の女子大学生。食欲は細く,飲料水をよく飲み,果物が大好物であるといいます。冷え症で,車によく酔います。腹診すると,乳房は小さく乳頭は未熟であり,腹部は軟弱で下腹部に少し圧痛を認めます。手掌は乾燥してガサガサしています。手掌の乾燥を目標に温経湯を与えました。冷え症であるため附子を加味しました。2ヵ月間で手掌のガサガサはよくなりました。色白で冷え症ということをポイントに当帰芍薬散を投与しました。虚弱タイプであるため,胃の消化をよくし飲めるようにと人参を加味し,冷え症であるため附子を加味しました。本方を1年間服用すると鼻血が出はじめるようになりました。これは代償性月経ですから,そのうちに本物の月経がはじまるでしょうと勇気づけて与えました。続いて1年間飲むと,ちょっと生理があるようになりましたが,翌月はなかったり,その翌月は鼻血が出たりするような状態でした。続いて1年間,合計3年間服用すると生理が正規にくるようになりました。乳房も乳頭も成熟して乙女らしくなりました。附子は1日量0.5gから5gまで増量しました。この患者は,母娘ともに漢方を信用してくれたことがよかったと思います。

症例3:月経過多の職業婦人

49才の未婚の職業婦人。ハイゼ、ツトを飲んでから月経周期が狂い,出血が多く15日間も続くといって来院。患者は身長152cm,体重66kgの肥満タイプですが,胃腸が弱く,汗かきです。時どき首こり,肩こりがあるといいます。腹診するとお腹はぷかぷかです。出血が多いということで,まず芎帰膠艾湯を与えようかと考えましたが,肥っているわりにお腹がぶかぶかしてしまりがなく,胃腸が弱いという点から,虚証とみて加味逍遥散を与えました。49才という年齢も考慮しました。それに汗かきということから,防已と黄耆を加味しました。すると,この薬方が効いたのでしょうか,わずか1ヵ月の服用で月経は正常になり,患者は漢方の効果に驚いたと申しました。

症例4:流産後の無月経

30歳の婦人。約10ヵ月前に流産しましたが,その後月経がとまっています。それからまもなし外陰部に湿疹ができるようになりました。頭が重く,肩がこり,手足がだるく,足の裏がほてるといいます。大便は1日1回あるが快通しません。腹診すると,右の季肋下に抵抗と圧痛が著明で胸脇苦満を認めます。左下腹部に索状物をふれ,軽く押すと疼痛を訴えます。これは瘀血の腹証で,小腹急結といいます。そこで胸脇苦満と小腹急結を目標にして,大柴胡湯合桃核承気湯を与えました。これを3ヵ月ほど飲むと胸脇苦満が減じ,たった1日だけわずかに月経がありました。その次の月も1日だけありました。そしてその次の月は3日ほどありました。その頃から小腹急結も減じ,湿疹もだんだん軽快してきました。こんな状態で1年あまり前方をつづけ,月経が正規にくるようになり,湿疹も治り,それからまもなく妊娠し,無事に分娩しました。これは大塚敬節先生の治験例です。

症例5:耳朶のかゆい無月経

 52才の婦人。体格のよい婦人が耳朶がかゆくて困るといって来院。耳鼻科へも通ったがどうしてもかゆみがよくならないといいます。脈をみると沈んで力があり,遅であります。腹部は膨満していて底力があり,頑固な便秘があります。月経は半年ほど前からとまっているといいます。私は脈と腹とを目標にして大承気湯を与えたととろ, 5日目になって外出もできないほどの多量の月経があり,その月経が始まった時から,耳のかゆみがなくなってしまいました。大承気湯で気のめぐりがよくなったので,滞っていた月経が下り,それと同時に耳のかゆみも去ったのでしょう。これは大塚敬節先生の治験例です。

症例6:色白の無月経

 23才の婦人。色が白く,痩せて背も低く,一見して13,14才くらいにしかみえません。1年あまり月経がとまっているといいます。私はこれに当帰芍薬散を用いて効がなく,結局,全身の栄養をよくしてみようと考え, 1年ほど附子理中湯を用いたととろ,全身の発育がよくなるとともに,月経が通ずるようになりました。これは大塚敬節先生の治験例です。

症例7:心下痞硬の経閉

「経閉の婦人ありて,心下痞硬が甚だしい。経閉は後にして,先ず心下痞硬を治すべしと,半夏瀉心湯を投与するに,痞硬が解するに従って月経が来れり。その後,半夏瀉心湯にて経閉を治せしこと両三人なり。」これは『椿庭夜話』に記載しである山内業広先生の治験例です。以上の治験例からみて,月経異常といっても駆瘀血剤ばかり用いるのではなく,やはり証に随って薬方を用いることが必要であることがおわかりいただけたと思います。

帯下

帯下は婦人科の疾患につきまとう症状で,昔は婦人科医のことを帯下医といったほどであります。俗におりものといいます。もともと健康な婦人でも多少の分泌物は性器にあるものですが,婦人病にかかると増量し,性質が変わってきます。白帯下,黄帯下,赤帯下などの色がついてきます。癌や流産後の遺残のあるときは臭様な臭気をおびます。 婦人の性器はつねに外からの汚染をうけやすく,腔炎,子宮頸管内膜炎,卵管炎,骨盤腹膜炎などに罹りやすく,いずれも帯下の原因となります。

使用する薬方名

竜胆瀉肝湯:本方は膀胱,尿道,子宮などの炎症で, 充血,腫脹,疼痛を伴っている実証のものに用います。内膜炎,腔炎,トリコモナスなどの黄帯下,赤帯下に用います。 八味帯下方:本方はやや貧血気味で,腹部もそれほど緊張充実していないものに用います。はなはだしい炎症や充血はなし亜急性,慢性の経過をとっている白帯下,黄帯下に用います。淋毒性でもトリコモナスによるものでもよいです。本方は『本朝経験方』で,帯下の妙剤といわれています。 桂枝茯苓丸:本方は下腹部に瘀血があって,抵抗庄痛のあるものに用います。急性,慢性にかかわらず用います。 当帰芍薬散:本方は貧血気味の冷え症で,虚証の白帯下に用います。 加味逍遥散:当帰芍薬散を用いる型の帯下で, 当帰芍薬散の効かないものに本方でよいことがあります。当帰芍薬散よりはやや熱状のあるものによいです。 清心蓮子飲:本方は虚状をおびた慢性化したもので, 胃腸虚弱で冷え症の, 米のとぎ汁のような帯下(白淫)が大量に下るというものに用います。 五積散:冷え症の婦人で,冷えのため薄い白帯下があるというものに用いてよいです。田植や運動競技などで冷えたり,冷房病で冷えたりしたときに現われる白帯下によく用いられます。 腸癰湯:本方は下腹部に抵抗圧痛のあるものに用います。桂枝茯苓丸を用いるよりも実証で,便秘がある場合は大黄を加味します。

薏苡附子敗醤散:うすい白帯下が長びいて,腹部軟弱で,足腰が冷える陰虚証のものに用います。帯下によく薏苡仁が用いられます。 柴胡加竜骨牡蛎湯:がっちりした実証型で,胸脇苦満があり,臓部で動惇の亢進している婦人の帯下に用います。胸脇苦満とは,胸から脇にかけてモノが充満しているような苦しい感じをいいます。 この季肋部のあたりを押すと抵抗と重苦しさを感じて,これを胸脇苦満の症状といい,柴胡剤を用いる目標になります。

桂枝加竜骨牡蠣湯:虚弱型でつかれやすく、のぼせたり,足が冷えたりして,臍部で動悸の亢進している婦人の帯下に用います。帯下には竜骨をよく用います。

八味地黄丸:色の浅黒い婦人で, 下腹部が軟らかにふくれている白帯下に用いてよいことがあります。

十全大補湯:産後とか流産後などに体力が衰え, 元気がなく貧血していて疲れやすい帯下に用います。

人参湯・六君子湯:胃腸の弱い,冷え症の帯下に用います。

羽澤散:本方は膣に挿入する坐薬で,帯下の多いもの, 陰部の冷えるもの, 陰部にかゆみを訴えるものなどに用います。

症例

症例1:帯下と冷え症 38才の婦人。数年前から黄色の帯下が多く,いろいろ治療をしたが治らないとのことで来院。栄養は良好であるが,顔色はどす黒い。大便は1日1回,小水は1日7-8回で頻回であり,月経は不順で,冷え症であります。腹力は軟弱で,右下腹部を押すと圧痛があります。八味帯下方に附子を加味して投与しました。 2ヵ月間でほとんどよくなり,冷え症もよくなりました。その後,膀胱炎になり,清心蓮子飲を与えてよくなりました。

症例2:トリコモナスによる帯下 52才の婦人。 2年前から黄色の帯下が相当量あり,陰部がかゆく, 婦人科で診察を受けたととろ, トリコモナスによる帯下と陰部掻痒である といわれました。そのほか,この婦人は2年前から坐骨神経痛があり,歩行困難を訴え,手足に湿疹が出ていてかゆいといいます。栄養は中等度,顔色は蒼白で貧血性,月経は41才のとき空襲で驚いたためか, ピタリと止まったというととです。子供はありません。八味帯下方を与えると, 20日間の服用で帯下の大半は治り,坐骨神経痛もほとんどよくなりました。結局50日間服用して,帯下と神経痛は全治しました。 これは矢数道明先生の治験例です。

症例3:トリコモナスによる帯下 19才の婦人。昨年来帯下があり, 陰部がかゆい。医師はトリコモナスによるものだと診断しました。患者は色の白いほうでありますが,体格はがっちりしています。私はこれに竜胆瀉肝湯を与え,帯下に臭気が強いというので,山帰来と金銀花を加味しました。これを服用して1ヵ月で帯下は減じ,臭気もなくなり, 5ヵ月の服用で全治しました。これは大塚敬節先生の治験例です。

症例4:冷えると帯下が多い37才の婦人。

冷え症で困る,冷えると小便が近くなり,帯下も非常に多くなります。その帯下は水のようにさらさらしています。よくめまいや頭重があり,冷えると腹痛が起こり,腹が張ります。大便は軟らかくて1日1回,胃部には振水音があり,脈は遅弱であります。以上の症状から,裏に寒がある(消化器が冷えている〉と診断して,これを温める方針で,人参湯を与えました。これを飲むと,からだが温まって気分がよい。そればかりか,わずか4, 5日の服用で帯下がほとんどなくなったのには患者も驚いたらしいが,私もその速効に驚きました。この患者は1ヵ月の服薬で別人のように健康になりました。これは大塚敬節先生の治験例です。

参考文献

漢方診療医典

症候による漢方治療の実際

椿庭夜話

臨床薬剤師とは


薬局のクオリティ


薬剤師のスキル(研究も出来る)


基礎疾患の治療の本当の目的

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