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鼻炎・アレルギー性鼻炎副鼻腔炎



寺師 睦宗  日本漢方医学研究所/監事

本国は,症侯別漢方治療解説のうちの鼻炎,アレルギー性鼻炎,副鼻腟炎の三つについてお話しいたします。

[I]鼻炎 鼻炎には急性と慢性とがあります。急性鼻炎はクシャミが出て,鼻がつまり,鼻汁が多く出るようになります。そして鼻汁は粘液性または膿性に変ゎってゆきます。多くは頭痛,発熱を伴い,鼻声となり,食欲も減少します。この急性鼻炎は感冒のはじまりによく起こります。  慢性鼻炎は,急性のものが繰り返して起こることが多いです。鼻粘膜は慢性的に腫脹し,粘液の分泌または膿性あるいは粘血性,膿血性の分泌をきたし,鼻腟は狭くなりまして呼吸が妨げられ,睡眠時はいびきを発します。常に頭痛を訴え,記憶力は減退し,注意力が散慢となります。  これに対する漢方の薬方として次のようなものがあります。

(1)葛根湯:この薬方は,風邪をひいて急性鼻炎を起こした時,その初期に一般に用います。頭痛,発熱,悪寒,鼻閉塞,鼻汁などのある時であり,また慢性鼻炎となったものにも用いてよいです。  この葛根湯を用いる目標として,臍の上を軽くこすりますと,患者は圧痛を訴えます。この圧痛は症状が軽快するとともに消失します。しかしこの圧痛がないからとて葛根湯を用いてはならないということにはなりません。これは大塚敬節先生の発見された腹証であります。葛根湯の主薬は葛根です。

(2)麻黄湯:この薬方は,幼児によくみられる鼻炎で,ひどい鼻づまりが起こり,哺乳困難をきたし,睡眠も妨げられるものに用います。しかし幼児ばかりでなく,年長者の鼻づまりに用いてもよろしいです。本方は鼻閉塞,鼻づまりが主訴で,鼻汁は少なく,脈は浮で力があり,汗のないのが目標であります。虚弱の子供には分量を少なくして用います。また慢性病でも激しい鼻づまりにも用います。

(3)小青竜湯:この薬方は鼻汁やくしゃみが頻繁に出て,鼻汁過多症となっているものに用います。分泌物は水のようで希薄のことが多いです。これは麻黄,細辛を主薬にした8種類の生薬から成っております。

(4)小柴胡湯:この薬方は急性鼻炎にかかりまして, 日数が経過しても治らない、そして亜急性,または慢性鼻炎となって胸脇苦満の症状を呈するものに用います。胸脇苦満の症状についてはあとで述べます。本方は柴胡が主薬であります。

(5)十味敗毒湯:この薬方は鼻汁が粘液性,または膿性の分泌物が多量に出るものに用います。急性鼻炎に用いると,慢性に移行することを予防することができます。慢性鼻炎にも長期間連用するとよいです。この薬方は,柴胡,撲樕,桔梗等10種類の生薬が配合されており,一般には湿疹の薬方です。

(6)荊芥連翹湯:これも鼻汁が粘液性,または膿性の分泌物の出るもので,皮膚の色が浅黒く,腹壁が緊張しているものに用います。これは荊芥連翹湯というように,荊芥と連翹が主薬でありまして,14種類の生薬から成っております。

(7)柴円:これは幼児の胎毒の薬でありまして,胎毒による鼻閉塞に用いますと,その胎毒が下がって軽快することがあります。この薬方は巴豆という強い薬を主薬とする下剤でありまして,腸内容を一掃する頓服として用います。一般にはヒマシ油の適応症とみられるものに効を奏します。

鼻づまりの症例:10才の少年で,ふだんから鼻炎があります。風邪をひくと鼻がつまって,口で呼吸をしなければなりません。頭痛がし,時々寒気があります。脈は浮で力があります。咳は出ません。そこで麻黄湯を与えますと,10数分で鼻のつまりがとれて,風邪も3日間の服用でよくなりました。麻黄湯を風邪に用いる時は,脈が浮いていて力があり,寒気と熱があって,頭痛がしたり,節々が痛んだり,鼻がつまったりするのを目標にします。これは大塚敬節先生の治験例です。

[Ⅱ ]アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎の抗原は,喘息と同じように,動物の毛,綿,花粉,住居の埃,においなどで,食事などでは動物性の肉,卵,牛乳,魚や貝類などがあげられていますが,臨床的には明らかにすることは困難です。誘因として,寒冷,光線,化学的刺激,内分泌失調,自律神経失調,過労,精神感動,ホルモンあるいはビタミン欠乏などがあるといわれております。また遺伝やアレルギー体質と関係が深く,気管支喘息と合併することが多いです。発作の時は鼻粘膜の組織, とくに毛細血管の透過性が増して漿液性の浸潤をきたし,そのため水のような鼻汁が流れ,鼻が塞がり,反射的にくしゃみが頻発し,ひどくなると涙が流れ,顔中水をかぶせたようになります。患者はいつも鼻の自覚症状があって, 1年中風邪をひいているようであると訴えることが多いです。漢方的には水分の代謝異常によるものが多く,溢飲の証とみられるもので,証に従つていろいろの処方を選択します。その薬方としては,

(1)小青竜湯:これは平素から体の内部に水毒のある体質の人が,外来の刺激によってこの水毒が動揺して上にのぼり, くしゃみの頻発,鼻汁過多となり,はなはだしい時には涙が出て,よだれが流れ出るというものに用います。これは麻黄と細辛が主薬です。

(2)麦門冬湯:これは麦門冬が主薬です。この薬ほ気ののぼせ(上逆)によって咽喉部の刺激感,乾燥感,痙攣性の咳などが起こるものによく用います。くしゃみの頻発する状態が痙攣性の咳嗽とよく似ていることから, これは大逆上手の証としてアレルギー性鼻炎のくしゃみに用いるわけです。小青竜湯は鼻汁が流れるほどであり,麦門冬湯はあまり鼻汁が多く出ないのが特徴です。しかし,その限界は判然としないことがあります。そこでまず小青竜湯を使って, これが効かない時に麦門冬湯を与えて効果が大きいことがあります。

(3)葛根湯:これは顔面や項背部に炎症性の充血の症状があり,緊張感があり,それが目,耳,鼻に及んで,その粘膜に炎症が充血を起こす時に用います。アレルギー性鼻炎では常に肩こりがひどく,風邪をひきやすく, くしゃみを頻発するものに用います。

(4)当帰四逆加呉茱萸生姜湯:これはしもやけの薬方です。冷え症で風邪をひきやすく, しもやけのできやすい人で,アレルギー性鼻炎といわれるくしゃみの頻発するものに用いることが多いです。本方は当帰,芍薬,細辛,呉茱萸が主薬であります。

(5) 甘草附子湯:これは風邪をひきやすく, くしゃみが頻発し,背中が冷えてゾクゾク寒気がし,鼻汁が流れて,頭が痛いとか,のぼせるというのに用います。甘草,白朮,附子が主薬であります。

(6)麻黄附子細辛湯:これは虚弱児や老人などのアレルギー性鼻炎に用います。寒気,微熱,脈が沈,体全体が倦怠する,無気力であるというのを目標として用います。麻黄,附子,細辛の3味から成っています。

(7)十全大補湯:これは全身的に衰弱の傾向があり,顔色が青く,貧血していて皮膚も乾燥し,全身ともに虚しているもので,鼻粘膜が乾燥しがちで, くしゃみが頻発してアレルギー性鼻炎というようなものに用います。本方は人参,白朮,当帰,地黄を主薬にした10種類の生薬から成っています。

くしゃみの頻発する症例:50才の男子で,20年来のアレルギー性鼻炎といわれた人で, くしゃみがとめどもなく頻発し,鼻汁が流れ,涙が出て,顔中水をかぶったようになるといいます。急に冷えた空気を吸ったり,夜分寝巻に着替えたりするとすぐ起こるといいます。毎晩床に入る時はちり紙を枕元に置き,眠りにつくまでに屑かごがちり紙で一杯になるといいます。これは内部にある水が外にあふれ出る溢飲の証であるとみて,小青竜湯を与えましたところ, 3日目から好転し,鼻紙がゎずかですみ,2ヵ月の服用ですっかりよくなり,その後再発しておりません。これは矢数道明先生の治験例です。

[Ⅲ]副鼻腔炎

鼻腟の周囲の骨の中にある大小の空洞を副鼻腟といいますが,ここに濃のたまる病気を副鼻腟炎または蓄膿症といいます。漢名では鼻縁,または膿漏と呼んでいました。この副鼻腟炎は,感冒や鼻炎が原因となり,急性症から慢性症に移行します。黄色い,または青味を帯びた膿汁がたくさん出て,鼻閉塞,頭痛を訴え,記憶力,思考力が減退し,精神も沈みがちになります。急性症は比較的短期間で治意しますが,慢性症の中には相当頑固なものがあり,鼻茸や月E厚性鼻炎を併発しているものには内服だけでは治りにくいことがあります。漢方では証に応じた薬方を用いて早期に治癒するものがあります。この服鼻腔炎に用いる薬方には次のようなものがあります。それを説明いたします。

(1)葛根湯:葛根湯は急性症の初めに用いる薬方でありまして,発熱,頭重,鼻閉塞,膿汁が流れ出る,肩こりなどがあるものに用いるとよく効きます。これは最初に申しあげましたように,臍の上を押えると圧痛があります。臍の圧痛点といいますが,この腹証のある人に用います。葛根と麻黄が主薬であります。この葛根湯に2~ 3味を加えたものが慢性に移行した場合によく用いられ,川芎,撲樕,桔梗,辛夷などを加味します。また熱があって,便秘の傾向のあるものには石膏と大黄を加味するとよいです。肥厚性鼻炎,鼻茸にこの薬方を連用するとよいことがあります。手術をして再発したり,病状のよくならないものに用いてもよいです。一般に鼻の病気には辛夷を加えます。

(2)荊芥連翹湯加辛夷:これは副鼻腟炎にかかりやすい体質のもので,筋骨質で,皮膚の色が浅黒く,腹筋が緊張していて,腹診をすると笑って手を払いのけるほど過敏であります。そして手足の裏が湿りやすいようなタイプのものに用います。また葛根湯で効かない場合に,荊芥連翹湯を用いることもよいでしよう。

(3)小柴胡湯:これは中等度の体格で,胸脇苦満の腹証のあるものに用います。胸脇苦満については先にも出てきましたが,今まで幾度か説明があったかと思います。胸から脇にかけて苦しい感じがあり,そこを押すと抵抗を感じ,患者は痛みを訴えます。これを胸脇苦満の腹証といいます。この詳しいことは,『漢方医学講座』2の大柴胡湯の章に書いておきましたからお読み下さい。この小柴胡湯に桔梗,石膏を加味したり,苓桂朮甘湯を合わせて用います。柴胡が主薬です。

(4)大柴胡湯:これはがっちりした肥満型の体格で,心窩部が硬く張って,胸脇苦満が強く現われて,頭重,肩こり,便秘の傾向にあるものに用います。これにも桔梗,石膏を加味して用いることがあります。

(5)防風通聖散:先に申した大柴胡湯は硬い感じの肥満型ですが,これは軟らかい感じのする肥満型の体格で,臍を中心としてでっぶりとふとったタイプの便秘がちのものに用います。これにも辛夷を加えます。

(6)四逆散:これは大柴胡湯の腹証に似ておりまして,やはり胸脇苦満の腹証があり,心窩部が硬くて緊張していますが,それほど充実していないというものに用います。これに茯苓,辛夷を加えるとよいです。

(7) 辛夷清肺湯:これは副鼻腟炎や肥厚性鼻炎,鼻茸,臭覚欠如症,鼻閉塞のはなはだしいもので,以上述べたいろいろな薬方を用いても効果がないというものにこの薬方を用いるとよいことがありますから,一応試みてよいでしょう。これは鼻によく効く辛夷が主薬で,それに麦門冬を加えた薬方です。

(8)麗沢通気湯:これは,葛根湯を飲みますと,葛根湯には麻黄が入っていますから,胃が気持が悪いというような場合の蓄膿症に用いてよいことがあります。

(9) 苓桂朮甘湯:これは慢性の副鼻腟炎で,胃アトニーの傾向があって,胃内停水(胃の申に水が溜まっていて叩くとポチャポチャ音がする)を認めて,めまいや立ちくらみのあるものに用いてよいです。本方は葛根湯や小柴胡湯に合わせてよく用います。苓桂歳甘湯は茯苓と朮が入っていますから,水をさぼくわけです。

(10) 半夏白朮天麻湯:これも慢性の蓄膿症で,胃アトニー,胃下垂のあるもので,常に胃の具合が悪く,胃内停水があり,発作的に頭痛,めまい,嘔気を催すというようなものに用います。これは半夏と白朮が主薬であります。

(11) 補中益気湯:これは虚弱体質で,疲れやすく,貧血性で,慢性になった副鼻腔炎に辛夷を加味して用います。

(12) 十全大補湯:これは衰弱が一層進んで,疲労しやすく,貧血している慢性の副鼻腟炎に用います。

(13) 桂姜棗草黄辛附湯:この薬方は桂枝,生姜,大棗,甘草,麻黄,細辛,附子の7つの生薬の文字をとった名前で,体質が虚弱で冷え症のもので,あるいは慢性化して,諸治療で効果のないものに本方を用いて非常によいことがあります。本方は昔から大気一転の薬方といいまして,癌など難病奇疾に用いられるもので,漢方の妙薬です。

(14)清上防風湯:これは顔面にうっ滞した熱を清解させるもので,頭部の湿疹やにきびに用います。そこで副鼻腟炎を,顔面にうっ滞した熱とみたてて用いるのであり,一般にはにきびの薬方です。

症例

これはみな大塚先生の治験例です。

(1)激痛を訴える副鼻腟炎:

34才の婦人,肉づきも顔の血色もよく,数年前から慢性副鼻腔炎であったが,忙しい仕事をしているので放置しておりました。ところが3月の末に風邪をひいて,学年末で忙しいので,熱があるのに徹夜をすることもありました。3日前から右の顔が痛くなり,鼻の右側が腫れてきて,昨夜一睡もできないほど痛んだといいます。見ると右の上顎洞とおばしきあたりに発赤し,灼熱感があり,指で押されても痛み,悪感があり,体温は38.2° Cです。脈は浮,大,数です。食事をするのに口を動かしてもひどく痛むので,今朝は牛乳を飲んだだけといいます。右の肩から首にかけてひどく凝り,腹診すると,腹筋は左右ともやや緊張していますが,臍の上に圧痛点があります。そこで,先生はこの患者に葛根湯と桔梗,石膏,薏苡仁を与えられました。たった1日分の服用で,その夜は激しい痛みはなく眠れ, 3日目の朝顔を洗っていますと,大量の臭みのある濃が鼻汁とともにドッと出て,患部の腫れも圧痛も軽くなり, 1週間も経たないうちに自覚的に苦痛がまったくなくなったという症例であります。

(2)胃弱の副鼻腔炎:

患者は数年前から肺結核があり,滋陰至宝湯を用いて最近は咳もなくなり,体力もついてきて疲れも少なくなり,だいぶ元気になってきました。数日前に風邪をひいて,鼻がつまり,上顎部が発赤腫脹して痛みを訴えるようになりました。医師にみてもらったところ急性の蓄膿を起こしたので, この際思いきって手術した方がよいといわれたというのです。しかし虚弱な体質で,胃腸が弱いのでなるべく手術をしないで治してほしいといってきました。脈は大きいが弱く,腹の力はなく,胃部に振水音を認めます。体温は37.3°Cです。そこで半夏白朮天麻湯加薏苡仁を与えましたところ, 3日間の服用で腫脹,発赤,疼痛ともに消失しました。引き続き3ヵ月ほど連用して,頭痛,鼻づまりはなくなったというのであります。

(3)28才の男子

半年ほど前から副鼻腟炎の治療を続けてよくならないので, 1ヵ月ほど前に鼻柱彎曲症の手術を受けました。主訴は7~ 8年前より後頭部が痛くて鼻汁が多く,喉の方へ流れ,その鼻汁に時々血がまじっており,またよく眠れない。大便は1日1行。腹診すると左右の季肋下より体傍にかけて腹直筋が棒のように硬い。これに四逆散加茯苓辛夷薏苡仁を与えました。これを飲むと頭が軽くなって睡眠がとれるようになりました。引き続いて3ヵ月ほど服用し,風邪もひかなければ鼻汁も流れるようなことがなくなつて服薬をやめたということであります。

(4)21才の未婚の婦人で,いつも後頭部が重く,急に振り向く時にめまいを起こし,青色い膿のような鼻汁がたくさん出るので,医師からは蓄膿であるといわれた。顔面にはにきびができていて,にきびは赤味を帯びている。脈は沈んで力がある。舌に茶褐色の苔がついていて乾燥している。便秘の傾向がありますが下剤を用いると下痢をしすぎるといいます。月経は2ヵ月前より不順になつている。腹は膨満はしていませんが,いったいに硬いというような症状です。それで消炎,解毒,排膿に効果のある清上防風湯に薏苡仁を入れて用いました。翌月は2回も月経があり,それが長引き,右側の鼻より多量の鼻汁が出て,にきびが減少し, 2ヵ月も経たないうちにほとんど治ってしまいました。鼻はその後も時々塞がったり,頭が重かったりしましたが,引き続いて本方を用い, 6ヵ月あまりで全快したということです。

以上,鼻炎,アレルギー性鼻炎,副鼻腔炎の話を終わります。

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