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葛根湯



山田 光胤  日本東洋医学会/副理事長

本日から,重要な処方の解説をいたします。まず初めに葛根湯のお話をいたします。その前にちょっとお断りいたしますが,これから続けて解説をする処方の大部分は,『傷寒論』にある処方であります。傷寒論は元来,熱の出る急性病に対する治療法を事こまかに書いた中国の古典でありますので,中国では傷寒論の中にある処方はすべて急性熱性病にのみ使用しております。しかし日本の漢方では,この傷寒論にある処方を熱のない,漢方でいう雑病,つまり無熱の慢性病にも応用していて,現在日本で行なわれている漢方の大部分の処方が傷寒論からとられたものであります。そういう中国医学と日本の漢方には若干の違いがありますので,これからお話しするのは,日本式の処方の使用法についての解説であるということをお含みおき願いたいと思います。

漢方名:薬方(処方)名は葛根湯であります。

処方内容:葛根湯の内容は,葛根、麻黄、桂枝、甘草、芍薬、大棗、生姜の7種類の組合わせであります。分量は省略いたします。

証:葛根湯を用いる,いわゆる葛根湯証はどういうものか, その概略を申しあげます。熱病の場合には,この葛根湯は太陽病,すなわち表(体表)に熱のある病気に使います。表に熱があって, しかも実証の場合(表熱実証), すなわち熱の出始めでありまして,患者の体力がかなり充実していて,明らかな闘病反応が現われている時であります。雑病,すなわち無熱の慢性病に使う場合には,その傷寒に使う使い方を利用しまして,熱のある,あるいは陽証の実証に使います。

使用目標:葛根湯の使用目標とは, すなわち, どういう症状の組合わせの時に使うかということであります。まず熱の出る病気,つまり傷寒の場合であります。この場合,悪寒,発熱(自覚的な熱感)があって頭痛がして,自然に汗が出ないというのがポイントであります。そして首すじ,背すじがこわばるということが大事なポイントであります。このような状況があって,脈が浮で力があるもの一一このような患者に使うわけであります。浮脈というのは,脈をみる触診指を脈のところに軽く触れただけで もわかるような,表在性の脈のことであります。そして力を入れても,それが消えないようなものが浮で力のある脈ということであります。これが葛根湯証の脈であります。この時は,体温が上昇していることが多いわけであります。すなわち現代医学的な発熱の状態にあることが多いわけですが,場合によっては発熱の前段階であることもありますし,また,発熱していないけれども,炎症症状が起こり始めている場合もあります。これが熱のある病気に使う場合の一つであります。もう一つは,やはり悪寒,発熱があって、下痢をする場合であります。この下痢は裏急後重を伴うような下痢が多いのあります。すなわち、下痢をしてもすぐにそのあとの残便感があって、また便意を催すといような裏急後重のある場合でありまして、これは流感が胃腸症状を呈する時、いわゆる冒腸型の流惑の時などに見られる状況であります。これは漢方でいう太陽と陽明の合病という状態であります。次に無熱の慢性病,すなわち雑病にはどういう使い方をするかと申しますと炎症の初期,あるいは炎症性化膿性の疾患の初期に使います。また手足の痛み、顔の痛みなどに用います。

応 用 例

このような用い方をしてどういう応用をするか,その例を申しあげます。たびたび出ますように,まずかぜに使います。葛根湯はかぜ薬だと思っているくらい,かぜの時に使用する漢方処方としては代表的なものであります。当然流感にも使います。なぜ葛根湯がかぜ薬と考えられるようになったかと申しますと,葛根湯証というのは,患者の虚実からいいいますと、やや実証になりますが、ほぼ虚実の中間にあたりまして,一般的にそのような体質をしている人が一番多いので,したがって葛根湯証がかぜや流感の時に一番現われやすいわけであります。

 次に,痛みに使う使い方として神経痛に使います。たとえば上肢の神経痛、顔の三叉神経痛などにしばしば使います。それから 副鼻腔炎(蓄膿症)にも使います。これは鼻の炎症に葛根湯を対応させて使うわけであります。また同じように,結膜炎、外耳炎,中耳炎にも使います。このような炎症に使う場合には、炎症の初期にはしばしば首のすじのこりが感じられるものでありまして、そのいう場合にはこの葛根湯が十分対応するわけであります。また化膿性の疾患として,フルンケル(癤:せつ)、疔(ちょう)などの初期に使います。あるいは皮膚病の一種にも使うことがあります。その場合は慢性の疾患であっても,漢方でいう陽証の場合に使うわけであります。陽証でありますので,皮膚病の状況としては赤味を帯びているということがポイントになります。ちょっといい忘れましたが,熱のある場合,下痢をする時に使うことがあります。これが大腸炎の初期であることもありますし,先ほど申しあげましたが,消化器型の感冒であることもあります。その場合の下痢の状況は,裏急後重を伴う下痢で,悪寒,発熱とともに起こってくる時であります。このように使い方として葛根湯というのはいろいろな応用範囲があるわけであります。今申しあげましたのはその数例でありまして,このほかにも葛根湯を使える機会はしばしばあるわけでありますが,一番使う機会の多い病名として申しあげたわけであります。

症 例

次に,実際に葛根湯をどのように使い,また使ったかとぃう例をお話しして了解を得たいと思います。かぜの時には葛根湯はしばしば使われますし,別に珍しい症例があるわけではありませんが,葛根湯はかぜの薬だと思っていて,かぜさえみれば葛根湯を使うという人がありますが,しかし,葛根湯がほとんど効かなかったという笑い話のような例もありまして,これは葛根場証ということを見きわめずに葛根湯を使ったので効かなかったわけで,葛根湯証に使えば,十中八,九は効果があるわけであります。効果のないかぜの例といたしますと,かぜのかかり始めから寒けが強くて,発熱(熱感)が起きない場合は太陽病ではなくて少陽病でありますので,いくら葛根湯を飲んでも効かず,かえって具合の悪くなることもあります。そうではなくて,葛根湯証と見きわめて使えば,大部分のかぜの初期のうちでありますと効果を現わすわけであります。

 次に,無熱の慢性病(雑病)に対する使い方についての例をお話しいたしますが,1例は私の診断としては三叉神経痛と思って使った例であります。患者は40才くらい,男性で, 1ヵ月くらい前から歯が痛いと思って歯医者さんヘ行きましたところ歯科では,虫歯がないから歯科の領域ではない,多分そのほかの痛みでしょうということで内科へ行くことを奨めました。そして近所の内科の開業医を訪ねましていろいろ検査をしたが,どこも悪いところがないというので,やはり歯が悪いせいではないか,もう一度よく歯医者さんにみてもらいなさいといわれてまた歯科へ行きました。そしてそこで歯学的な諸検査を受けましたが,どこも悪くないので,もう一度内科へ戻されました。歯科と内科を2往復したわけであります。そこでよくみますと,三叉神経の顔神経の出口あたりに圧痛がありまして,私は三叉神経痛ではないかと考えました。しかし,漢方としては歯の痛みでも三叉神経痛でも,どちらでもよいのであります。これは要するに葛根湯証でありまして,症状を聞いてみますと首がこる,肩がこるといいます。患者さんは小肥りで首の大い人ですが,漢方としてはどうしてもこれは葛根湯証であります。そこで葛根湯を使ったところ, 1週間たたないうちにその痛みはすっかり楽になったということで,大変感謝され,以来その一家は漢方党になったという,笑い話のような例でありま―す。

 もう一つは皮膚病に使った例でありますが,30才半ばのご婦人で,以前から慢性の湿疹とか日光皮膚炎になりやすいという人でありまして, 5月末頃の,日光が強くなった頃にやって来ました。数日前に草取りをしたら,その後また皮膚炎が起きたということでありまして,多分その時は接触性皮膚炎ではないかと思われますが,首すじから上肢全体に赤い丘疹が多発しておりまして,かなり痒みがあります。場所によってはその丘疹が融合して,大きな赤味になって腫れております。これは赤味がありますから陽証と判断したわけであります。しかし,一見したところスマートな体に見えましたので,これは虚証ではないかと思って裸にして診察したところ,意外にガッチリした体格の人で,腹部の緊張力もかなりあって虚証ではなく,虚実の中間,あるいは実証に近い虚実でありました。そこでこれは陽証でやや実証,皮膚には痒みとともに熱感がありますので,これは葛根湯証であると判断いたしました。そして葛根湯を使いましたところ, lヵ月たたないうちにその皮膚炎はすっかりおさまりました。その年は,夏中葛根湯を続けて飲ませておりましたところ,日光皮膚炎も一度も起こらずに秋まで無事に過ごしましたので,そこで治療を終了したという例であります。このように,葛根湯はいろいろな応用法がありまして,したがって葛根湯は昔から有名で,そのために葛根湯医者などというのが落語に出てくるくらいになりましたが,落語の葛根湯医者は藪医者の標本として出てくるのでありますが,実際にはこのように葛根湯の応用は広いので,葛根湯を十分に応用できるようになれば,漢方は一人前であるといえるわけであります。

鑑 別

ただし,これは葛根湯証を見きわめて使う場合でありまして,葛根湯証かと思ってもそうでない場合が時々あります。その1例は桂枝加葛根湯いうのがあります。これは葛根湯証よりも体力のない弱い人であります。かぜをひくと,初期にジクジクと脂汗のような自汗がある場合には,首すじ,背すじがこっても葛根湯ではなくて,これは桂枝加葛根湯であります。また,葛根湯を飲んでいるうちにかぜが治ればよいのでありますが,それで治らずに4~ 5日あるいは5~ 6日たって食欲がなくなって,口がまずくなってきたというような時は,次の少陽病の時期に移っているのでありまして,これは違う処方の適応になりますが,このお話は次回にいたします。また,慢性病に使う場合には,胃腸がはなはだしく弱い人にはこの葛根湯は使えません。葛根湯の中にある麻黄という薬物は、胃腸が非常に弱い人には胃の負担になりまして使用することができず,そういう場合には注意しなければなりません。

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