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月経異常・月経困難症・排卵障害、高プロラクチン血症の漢方



麻生武志  東京医科歯科大学医学部産婦人科教授

産婦人科の実地診療において,月経異常を訴えて来院する患者の数は大変に多く,また月経異常の種類もいろいろであります。月経異常を適切に治療するためには,まずその病態の正しい把握が必要であることは,漢方治療においても,西洋医学においても同じであります。  ではまず,月経異常とはどのような状態かを,今回お話しする内容と関連させて述べてみたいと思います。月経は,約1カ月の間隔で起こり,限られた日数で自然に止まる,子宮内膜からの周期的出血と定義されております。正常月経では,月経周期日数25-38日で±6日以内の変動があり,卵胞期18±6日,黄体期13±2日で,出血持続日数は3-7日間(平均4.6日間),経血量20-140mlが正常値ないしは正常範囲とされています。

西洋医学からみた月経異常

月経周期と経血量の異常

 以上述べました正常月経の臨床像から逸脱した状態が月経異常であり,稀発月経(oligomenorrhea)と頻発月経(polymenorrhea)が区別され,さらに無月経(amenorrhea)があります。また経血量と月経持続期間についてみますと,過少月経(hypomenorrhea),過多月経(hypermenorrhea)とい った異常がみられます。  月経周期と経血量の異常は以上のように定義されていますが,臨床的に異常との診断を下すには,これらの異常状態が一過性ではなく,各周期ごとにみられることを確認しなければなりません。女性の月経周期は複雑な機構で調節され,個体差も大きく, 2 -3カ月の変化をもって異常と決めつけるのは適当ではありません。  次に広い意味で月経異常に含まれます排卵障害月経困難症月経前緊張症についてまとめてみましょう。正常月経周期には,先程述べましたように一定期間の卵胞期と黄体期がなければなりませんが,排卵障害では,排卵の時期が早かったり,または逆に遅れて起こったり,さらに排卵がなくなる無排卵といった異常がみられます。また排卵はあっても,排卵後に形成される黄体が正常な機能を発揮するか否かも,月経異常と深い関連があります。このように排卵の時期や排卵の有無,黄体機能を把握することは,異常性総出血や不妊の診断,治療にとくに重要であります。月経困難症は,月経に随伴して下腹部痛,腰痛,腹部膨満感,吐気,頭痛などを呈し, 日常生活に支障をきたすような状態であり, また月経前緊張症(PMS)は月経前3-10日間にみられる異常で,月経発来とともに減退または消失する下腹部痛,下腹部膨満感,腰痛,怒りっぽくなる,乳房痛,落ち着かない,憂うつや,浮腫あるいは体重の増加を主徴とする症候群であります。以上述べてきましたのは,西洋医学の立場からみた月経異常でありますが,次に漢方治療の面からの月経異常について,その考え方を解説してみたいと思います。

漢方医学からみた月経異常

 現在一般に行われています漢方療法は,現代西洋医学に基づく診断法で病名を特定し,方剤を処方する方法と,漢方医学の理論に準拠して方剤を運用する方法の二つに大別されますが,理想的には,現代医学の診断法を用い,漢方的方法論にしたがって方剤を選択するということであります。  しかし,この漢方的方法論を十分に理解するには長い臨床経験が必要で,また漢方方剤の基本的な使い方,適応症を決定する上で不可欠な大原則である「証」を的確につかむことは,西洋医学を学んだ医師にとって必ずしも容易ではありません。  そこで漢方医学での月経異常の考え方を,日本東洋医学会出版の「漢方保険診療指針」で村岡高明が解説しておりますので,その一部を参考に,漢方医学からみた月経異常と,これに対する治療の実際的な考え方を述べてみましょう。  漢方医学では,月経異常は全身的な機能異常の1つの現象であり,全身的な観点からの治療を行って,全身の機能調整や改善を促し,その一分症である生殖・内分泌機能,ひいては月経異常をも正常化する,また臨床的に月経異常や不妊の患者に漢方薬を投与し,妊娠した症例では,漢方薬が全身的な反応系(内部環境ということになりましょうが)に生じた複合的な病因を是正し,諸機能の矯正化が促された結果,治療効果へと結びついたと解される。

 主として血の病態(これについてはのちに触れますが)の改善が関与すると考えられております。これが月経異常に対する漢方療法の基本的な理念といえましょう。月経異常の原因として漢方では,外因としての外感,すなわち自然界の気候などの環境因子,内証, 内面的な精神・情緒的因子,腑内外因,飲食,疲労などの三つの原因によって,五臓六腑と気,血,水に不調和が起こるためにもたらされるといわれています。このような原因が個体にどのような影響を及ぽすかを分析するにあたって,漢方医学の基本概念である(気虚,気滞),(血虚,瘀血),また四診による八綱弁証(これには陰,陽,表,裏, 寒,熱,虚, 実がありますが) ,これが重要な意味を持つのでありまして,この点,物理的・化学的方法を駆使して客観的に病態を把握し,診断する現代医学の手法と大きく異なるところであります。

 たとえば漢方での四診では,望,聞,問,切と呼ばれる医師の五感による診断法が行われます。ここでいいますは視診に相当し,患者の体格,顔色,表情などのほかに,特殊なものとして舌診があります。は,音声,咳嗽, 体臭など,医師の聴覚,嘆覚から得られる情報でありますし,は問診であります。とは脈診,腹診で,治療法の決定につながるものとして重視されております。このような問診,視診によって得られる情報の重要性は,西洋医学においてもまったく同じであります。  

 漢方医学独自の基本概念である気,血,水とは仮想的病因論であり,治療を考える上で有用で、血の異常である瘀血と気虚は月経異常に深く関連しており,

 この中で瘀血とは,病態生理的に静脈血の微小循環を含めた血流障害によるうっ滞,出血傾向や凝固・線溶系,血液の粘度の異常,門脈系の障害などを包括した概念であります。腹部臓器のうっ血としては,下腹部の抵抗, 圧痛などが現れ,骨盤内臓器では, 子宮および付属器の圧痛と腫脹,腹部のリビド着色,頚管粘i夜の増量,腹壁・外陰部の特異的所見として把えられます。

 以上の観点から,月経異常,漢方でいいます月経病は, 末梢の非生理的な血を意味し,子宮のうっ血を含めた病態と推察されますが,この末梢の循環「血」を調整するものとして,上位中枢に関連する気の概念があります。は血の子であり,は気の母であるといわれますように,気血同病の考えから,気血の均衡を重視し,気をめぐらすことによって血の病を治すことができるという考え方であります。

 このように血と密接に関連する気は,働きがあって形のないものとされ,神経系,内分泌系などの生体情報伝達機能に関与するといえましょう。これはあたかも,内分泌機能と自律神経系との相互関係に類似したものと解釈されます。

 以上述べましたように,漢方医学での月経異常の病態と治療方針について,その基本概念をまとめてみますと,標的臓器に対する直接作用より全身状態の改善を図り,その一部として月経異常に対する効果がもたらされる。また全身状態が改善された結果,種々の西洋医学で用いる薬剤に対する個体の感受性の改善が期待される。次に,患者から得られる情報を四診によって可能な限り綿密に把え,治療にあたっては,病名漢方という使い方ではなくて,随証療法,あるいは証に合った方剤を選ぶ,すなわち方証相対であるべきであるということになると思います。

月経異常に対する漢方治療の実際

では以下に,現在産婦人科領域で頗期されています代表的な漢方方剤を中心に,月経異常すなわち月経病に対する具体的な治療法を,小山らがまとめました教室の経験と報告をもとに概説してみましょう。

 月経異常の実地診療において用いられる漢方処方は,当帰芍薬散,温経湯,桂枝茯苓丸,加味逍遥散などであります。これら方剤別の治療対象と適応症の特徴を次にあげてみましょう。

当帰芍薬散は,一般に顔色が青白く .筋肉が薄弱で,疲労しやすい傾向にある症例,すなわち虚証の患者が適応、となります。本剤の構成成分から,血行の促進,鎮痛,鎮症,利水作用が認められていますので,月経前緊張症や,月経後半の月経痛に有効であります。また無排卵周期症黄体機能不全患者に. 1日7.5gを平均3-4カ月投与しましたところ,約30-50%の周期で効果を認めております。

温経湯も虚証を示す症例が適応、で,排卵中枢の活性作用が推定されており,証が合えば当帰芍薬散より高い治療効果が得られます。教室のデータでは. 1日7.5gの投与3カ月間で,無排卵周期症黄体機能不全患者の約30-40%の周期に,排卵や黄体機能の正常化が認められております。

桂枝茯苓丸はこれに対し,体力中等度,もしくはそれ以上の中間証から実証タイプに処方されます。冷え,のぽせ,赤ら顔,便秘, 下腹部に圧痛,抵抗といった瘀血を伴い,神経・精神症状として,頭痛,肩凝り, 眩暈、のぽせなど気の上衡があって,無月経,月経過多,月経困難症のある症例が対象にとなります。また五十嵐の報告では,持続無排卵周期症の50-70%に排卵誘発効果が得られたとしております。

加味逍遥散は,虚証から虚実中間証で,冷え,のぽせがあり,月経不順,肩凝り,眩暈,頭重などの不定愁訴症候があり,脇腹に苦満のある場合に用いるとされております。

 以上が今日実地診療で用いられている主な方剤である、当帰芍薬散,温経揚,桂枝茯苓丸 加味逍遥散の適応症,適応患者と治療効果ですが,次に視点を変えて,月経異常の種類別に,どのような方剤が適当かを考えてみることにいたします。

月経異常の種類と適応処方

黄体機能不全

卵巣機能陣容の1っとして, 黄体機能不全との診断が臨床的にしばしば下されますが,その定義は必ずしも確定しておらず,その病因につきましでもいまだ議論の余地が多く残されております。基礎体温上,高温相が正常より短く,黄体期の血中progesteronelevelが低い,子宮内膜像において2日以上のずれがあるなどが一般的に認められる変化であります。この黄体機能不全には, 当帰芍薬散,温経湯,桂枝茯苓丸が第一選択となり,これらの単独療法で効果が認められておりますが,クロミフェンとの併用,排卵期や黄体期のhCG療法との併用などにより,より高い効果が得られております。  無排卵周期症は,生殖機能が大きく変化する思春期から性成熟期,性成熟期から更年期へ移行する時期,または産褥期から月経周期が回復する時期によくみられます。通常卵胞はある程度まで発育しますが, 主に中枢機能の障害のために,排卵に必要な刺激がみられず,卵胞は閉鎖してしまいます。このためにある程度のエストロゲンの分泌がみられますので,不規則で止血しにくい機能性出血の原因となります。このような出血が更年期前に起こりますと,子宮内膜癌との鑑別がきわめて重要であります。このような子宮の悪性,器質的な変化を除外しえた症例には, 温経湯, 当帰芍薬散を中心とした治療が勧められます。証によっては桂枝茯苓丸, 芍薬甘草湯,八味地黄丸などが使用されます。2-3カ月の投与で改善がみられなければ,クロミフェン療法との併用などを積極的に考慮すべきでしょう。

 第1 度無月経に対しても,無排卵周期症において用いた温経湯,当帰芍薬散を中心とした治療がなされますが,治療効果がみられるまでにはより長期の投与が必要であることが多いようです。約6カ月をめどに治療を続け,反応が認められなければ. 2種類の漢方処方を組み合わせた,たとえば当帰芍薬散と四物湯,温経湯と補中益気湯などの2処方投与なども試みられております。また症例によってはクロミフェン.hMG. hCG療法との併用も考慮すべきでしょう。

 さらに病状が進行した第2度無月経での漢方の直接効果はあまり期待できないようでありますが,本症患者の多くは体調に障害があり,漢方療法による全身状態の改善効果が期待されます。

 次に,高プロラクチン血症多嚢胞性卵巣症候群に対する漢方療法をみます。

 高プロラクチン血症にはブロモクリプチンがきわめて高い治療効果を示します。しかし本剤には吐き気,低血圧,便秘などの副作用があり,服用できない症例も少なくありません。芍薬甘草湯の単独投与で効果のみられる場合があり,また本方剤との併用でブロモクリプチンの投与量を減らして副作用を軽減することができます。

多嚢胞性卵巣症候群は,高LH、高アンドロゲン,時に高プロラクチン状態を含む複雑な病態を示し,ある程度以上に病態が進行した例ではクロミフェンは無効で.hMG-hCG療法ではしばしば卵巣の過剰刺激症候群をきたすことになります。この点で. 芍薬甘草湯や温経湯などの漢方薬には,中枢および末梢を含めた全体の機能を調節し,症状の改善効果,治療効果をもたらす作用が期待されます。

月経困難症に対する漢方治療

最後に,月経困難症に対する漢方薬についてでありますが,本症には,子宮内膜症や子宮筋腫などの器質的な病変に起因するものと,明らかな器質的病変を認めないものや,骨盤内うっ血症候群として取り扱われる,主に瘀血に起因するものとに分けられます。 骨盤内うっ血症候群を主体とする器質性変化を認めない月経困難症では,実証の場合には桂枝茯苓丸が,虚証例には当帰芍薬散が奏効する頻度が高いとされております。

 ご存じのように,子宮内膜症に対して,今日ダナゾール療法またはLHRHアナログ療法が広く行われ,すぐれた治療効果が得られていますが,同時にこれらの治療法には症例によって副作用がみられる場合もあります。このような症例や軽症例への対応として, 桂枝茯苓丸や当帰芍薬散などの併用といった方法はきわめて有効であると考えられます。

漢方療法の利点および留意点

以上述べてきましたように.漢方療法には単独で十分な効果がみられる場合が多いと同時に,西洋薬との併用による相乗的効果を発揮し,ひいては投与量を減少させ,副作用の発現を防ぐ効果がみられます。また若年者や未婚,妊娠をすぐ希望しない月経異常例では,西洋医学で用いる強力な薬剤による治療が適応とならない場合があります。このような症例には,漢方療法が適当な選択となりましょう。

 今回は時間の関係で,今日まで諸家が経験し,報告されてきた多数の方剤や,これらの方剤の作用機序に関する基礎的研究成果をご紹介することはできませんでした。従来,漢方自身には副作用がほとんどない,あっても非常に軽いとの考えが一般的でありました。しかし証に合わない方剤を長期間続けることは無駄であり,または無効であるばかりでなく,時にはマイナスに作用するという報告もみられており,今後治療を行う場合に注目すべき点かと思います。これらの点にも留意していただき,漢方の基礎的概念にのっとって,本日は限られた数ではありましたが,ご紹介させていただきました方剤を,ご自身で月経異常患者に投与し,その感触をお試しいただきたいと思います。各症例の生体反応、を1例ごとに綿密に分析されますようお勧めいたします。そして,症例を積み重ねることで,皆さまご自身で各方剤の効果を確認していただき,さらにその上で,新しい方剤の導入や組み合わせをお考えいただければと思います。

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