• Nakamura Mineo

冷え症



青 山 廉 平   日本漢方医学研究所付属名古屋診療所所長 (日本東洋医学会理事)

本日は冷え症についてお話をいたします 。現代医学の教科書には冷え症 という言葉はありませんが,一般にはよく使用されておりますい医師にも頻用されております。この症候自体が生命にかかわると考えられることがないため,多くの場合放置されやすいのであります。しかし,手足が冷える,股が冷えるという,冷えを訴える患者,あるいは冷えと関連する腹痛や腰痛に悩む患者は臨床上少なくないのでありまして,自律神経失調症の代表的な症状であります。

 冷え症は東洋人に特有のもので,遺伝的な要因,食生活の問題,血液循環の障害,環境の変化,ストレスによる自律神経への影響,生活様式など, 原因となりうる要因が複雑に絡んでおります。

『金匱要略』に は,腹満 ・寒疝・宿食病脈証並治篇が記載されておりま す。寒疝とは,寒が裏に侵入して腹痛を起こすもので,腹にガスが溜まって張ったり,冷えると下痢をするといった症候が記載されております。そ の治療薬として大建中湯,附子粳米湯,赤丸,大烏頭煎,烏頭桂枝湯 ,当帰生姜羊肉湯など体を温める作用のある薬方があげられております。

冷えの分類とその病態

冷え症の実際の治療に際しては,陰陽,虚実,気血水など,漢方の基礎的な考え方を参考にすることが必要であります。冷えにもいろいろな病態がありますが,全身の冷え,胃腸機能の低下に伴う冷え,瘀血による冷え,冷えのぽせと分類して考えると便利であります 。

 まず全身の冷えでありますが,全身的に新陳代謝が低下し,自覚的に冷えを訴えたり,他覚的に皮膚温度の低下や,青白い顔を認めたりします。

 脈をみますと沈んで弱く徐脈の傾向があります。漢方では陰証という病態で,寒が表にあれば附子,寒が裏にあれば乾姜の入った処方を用いて新陳代謝を高めることが必要であります。

 次に胃腸機能の低下に伴う冷えは胃下垂,胃アトニー傾向のある人にみられるもので,消化管に異常な水分やガスが滞留し,消化服収機能の低下がみられ,冷える場合には嘔吐,腹痛,下痢などを起こします。人参,乾姜,生姜.呉茱萸,蜀椒など温める作用のある生薬を含む処方によって, 消化吸収機能を賦活するのであります。

 一般に冷え症の患者には水毒の状態を認めることが多いのであります。 すなわち水分の代謝が悪く,そのために冷えを訴えるのです。組織内の水分代謝のバランスを回復させることが必要であり,処方内に茯苓,猪苓, 沢瀉,朮などの生薬が配合されていることが多いのであります。

 また瘀血による冷えの場合には,体幹部には冷えはなく,新陳代謝も正常で胃腸も丈夫であるのに,四肢の冷えを訴えることが多いのです。瘀血は漢方独特の仮想的病理概念の1つで, うっ血,末梢の微小循環障害,凝固線溶解系の異常など,様々な病態の複雑な症候群として推定をされており ます。その症状としては,口が乾いですすぎたいと思うけれども飲みたくはない,他覚的に腹部に膨満がないのに,自覚的には膨満感がある,全身的または局所的な煩熱感,唇や舌の辺縁の暗赤紫色化,皮膚の青筋.鮫肌, 吐血,喀血,下血,月経障害などを伴うことがあります。このような瘀血

による手足のみの冷えには 当帰,川芎,桂枝など,血行をよくして水滞を除く作用のある生薬が繁用されます。代表的な処方は当帰芍薬散であります。

また体の丈夫な人でも,瘀血によって冷え症となることがあります。こ の場合の冷えは冷えのぼせの形で現れることが多く桃仁,牡丹皮を含む桂枝茯苓丸桃核承気湯などが用いられるのであります。これはこのあとで申し上げる冷えのぽせによるもの,あるいは桂枝を用いるべき冷えと考えてもよいのであります。

 冷えのぼせは気の循環の失調によって起こる症状で,頭痛,動悸,発汗などの症状を伴うことが多いのであります。漢方的には気逆の症状であり, 現代医学的には血管運動神経の異常と考えられる症状で,桂枝を用いる目標とされております。気逆の中には四肢末梢を起点として冷痛が中枢側へ 波及するものがあります。漢方ではこれを厥寒,厥冷といっております。厥冷は他覚的に手足の冷えを触知するけれども ,患者自身は必ずしも冷えを自覚しないのであります。これに対して厥寒は 患者自ら寒冷を訴える ものであります。 厥冷は,身体内部の陽気が変えて起こるもので症状が重く .厥寒は,外からの寒冷に襲われてそれに反応して起こるもので,症状は軽いのであります。手足の厥寒には当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用い,手足の厥冷には四逆散を用いるのであります。実地臨床上においてはほかの多くの場合と同様に ,冷え症以外の全身的所見も総合的に考えて判定する必要があることはいうまでもありません 。 冷え症イコール陰証とか.水毒とかいった画一的な見方を避けることは, 適切な効果をあげるためにはぜひ必要なことであります 。

頻用処方解説

冷え症に対する頻用処方について申し上げます。 まず当帰を含む処方がよく用いられます。当帰はセリ科のトウキの根で ,温性駆瘀血剤でありま す。血を温補滋潤し,血を巡らせ,月経を整え,痛みを鎮める作用があり, 月経不順,月経痛,不妊症,貧血,頭痛,四肢の冷痛,皮膚の枯燥や痒みを治すのに使用されております。近年は免疫系への調節作用も注目されているのであります。

 代表的な方剤は 当帰芍薬散で,主に虚弱な女性の冷え症に用います 。もともとは婦人の腹痛や妊婦の腹痛のために設けられた薬方でありますが, 冷え症で貧血性のものを目標とするのであります。色白で貧血傾向があり, 手足が冷えて寒がり,筋肉も軟らかく,月経困難症,月経時の浮腫傾向などのあるものによいのであります。下腹痛,腰痛,頭痛,め まい,耳鳴り, 肩凝り,動悸,易疲労 ,倦怠感などを訴える場合に使用するとよいのであります。

 腹診所見としては,腹部全体が軟らかく,下腹部皮膚温が上腹部より冷たいものが多く,心下部振水音を認めることもあり ます。妊娠,出産を契機として発症,あるいは増悪した病気,月経に一致して症状の変動する病気では,本方の特徴を備えていれば何病であっても使用してよいのであります。しかし,本方服用後に胃腸障害を起こすこともありますので,注意することが必要です。

 次は当帰四逆加呉茱萸生姜湯であります。当帰四逆湯は手足の厥寒を目標にして脈が小さく絶えるのではないかと思われるものに用い,前々から腹が冷えているものには呉茱萸,生姜を加えて用います。体全体が寒冷に敏感で,手足がひどく冷えて,冬はしもやけになりやすく,また冷えると症状が悪化し,腹部疝痛,慢性に経過する腰痛,背痛,四肢痛などを起こしやすいものに用いる処方であります。頭痛,冷えのぽせ,月経困難症, 月経周期の異常,性機能障害,性欲の減退などを訴えることもあるのです 。 とくに下腹部開腹術後の腹痛を主とした症状に著効を示すことがあります。 一般に捜せ型ないし中肉中背で血色の悪い女性に用いることが多いのです が,男性に用いても効果があります。腹診上では,下腹部で左方,または右あるいは 左のいずれかの部分に圧痛を訴えるものが多くありますが,この部に強い抵抗を触れることは少な いのであります。また腹部軟弱のものと,腹直筋の拘急しているものとあって,その腹状は一定しておりませんが,虚証であって,寒性であります。本方には 当帰のほか桂枝,呉茱萸,生姜,細辛など体を温める作用の ある生薬が多数含まれていることは意義のあることであります 。附子を含む処方も冷え症の治療に欠くことはできません。附子はキンポ ウゲ科のトリカブトの根で,新陳代謝の極度に衰えたものを賦活,回復さ せる作用があります。また血液循環を改善,促進しますので,鎮痛,温補, 強心,利尿などの作用を現します 。漢方では体を強く温める熱薬として重要な生薬です。しかし 中毒量と薬用量が接近していますので,毒性を弱めながら有用な活性を保つような種々の工夫が開発されております。

真武湯は,胃下垂,宵アトニー症のあるような虚弱体質の人で新陳代謝能が低下し,水気が腸や胃に滞留し,尿量が減少し,腹痛,下痢,足の冷え,めまい,動悸などの症状を訴える場合に用います 。下痢は慢性のものが多く.水様ないしは無形の軟便で,強い腹痛や,排便後のしぶり腹はないのが普通であります。脈は沈んで触れにくく遅い傾向があり,腹部は軟弱で, しばしばガスのために膨満することがあり,心下部振水音や正中芯 を臍上,臍下に認めます。体の倦怠感が著しく浮腫を現すこともあり,全体に生気に乏しいのが特徴であります。

桂枝加朮附湯は,虚弱体質の冷え症の人で,風邪を引くと脱力感がひどく,悪寒がいつまでもとれないとか,平素冷えると腹が痛む,四肢や関節が痛いという場合に用います 。

桂枝加附子湯は,桂枝湯方中に附子を加えたものです。冷え症で夏でも足袋を履かないと板の聞を歩けないとか ,足が冷えると腹が張って痛むというものに用い、津田玄仙は「疝による腹痛にはこの方に応ずるものが多 い」といっております。

桂枝加朮附湯 は桂枝加附子湯に朮を加えたもので,神経痛, リウマチ, 冷え症の腹痛,半身不随,小児麻痺などに用いられております。

八味地黄丸も方中に附子を含んでおり,腎の機能の表微を目標にして用 いる方剤で,老人の足が冷えるというものによいのであります。腰痛 ,夜 間頻原,下半身の疲労,脱力感 ,夕方の浮腫,朝の口内乾燥感 ,多尿,頻 尿,尿の淋瀝,性機能障害など老化による諸症状のうちの1症状として, 冷えを訴えることがあるのです 。しかし同一人物が夏期に手足がほてって不快だと訴えることもあります 。また,人参,乾姜,生姜,蜀椒などを含むものにも重要な処方が多いのです。体温の調節に要するエネルギーは,全身のエネルギー消費の 40% を占めるといいます。栄養不良は冷えの大きな原因となります。胃腸の消化吸収機能を健全に保つことはきわめて大切なことであります。したがって衰えた胃腸機能を回復させ ,消化管内に停滞するガスや水分を除くことによって,全身の栄養状態を改善する作用のある人参 ,乾姜,生姜,蜀椒な どを含む処方群の意義はきわめて大きく,漢方にいう虚証の人に汎用されております。

まず人参湯ですが,虚弱体質や体力の低下した人で筋肉が弛緩し,上腹部痛や胸痛があり ,手足が冷えるものに用います。血色が悪く生気に乏しく,疲れやすく,ときには下痢,嘔吐,めまいなどを起こしてきます。舌が湿潤して舌苔がなく, しばしば口内に薄い唾液が溜まります 。漢方では これを喜唾といいます。尿色は簿く水のようで,排尿の回数,量ともに多 く,冷えるとさらに増加する傾向があります 。腹部は軟弱無カで心下拍水音の著しいものと ,痩せて肉づきの薄い腹全体が板のように張っているものとがあり,脈は沈んで弱く徐脈の傾向があります。苓姜朮甘湯の茯苓の代わりに人参の入った処方で,消化器の障害があって冷えるものによいのであります。

四君子湯,六君子湯は,人参湯適応症に似て胃が弱く ,手足が冷える人に用いますが,腹痛を訴えることはほとんどありません。四君子湯は,顔色が悪く ,言葉にカがなく,食欲もなく,四肢の倦怠を 訴えるものを目標とし,六君子湯は四君子湯と 二陳湯の合方ですから,四君子湯の証でカがあり,胃内停水のあるものに用いるとよいのであります 。

大建中湯は,虚弱な,体力の低下した冷え症の人に用います。腹が冷えて痛むのです。腸内にガスと水分があり,腸の嬬動が亢進して腹満,腹鳴を訴えたり,腸の動くのを自覚したり,腹壁上から腸が動くのを望見することができます。腹部は全体として軟弱無力で弛緩し,甚だしい場合には 拳を腹皮の上におくと陥没し,拳を除いてもしばらくは陥凹したままになっているほどであります 。

苓姜朮甘湯は,腰から足にかけてひどく冷え,冷感を自覚するものに用います。「水中に座するがごとく」 と古典には表現されております。尿が清澄で多量に出るということが目標になります。冷えのために腰脚や足が痛む場合に効果があります。桂枝を含む処方も冷えによいのであります。桂枝は,クスノキ科のカツラの枝の皮で,血行を促進し体を温め,諸臓器の機能を高める作用があり ます。したがって強壮作用があり,発汗,解熱し,尿の排池をよくし,鎮静,鎮痛する作用を現します。桂枝は,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,桂枚加朮附湯;,八味地黄丸,桂枝茯苓丸,桃核承気湯などに含まれておりますが ,桂枝を含む薬方の代表として桂枝湯について述べておきます 。

桂枝湯は,比較的虚弱なものの冷えのぽせに用いられることがあります 。 色白で皮膚のきめが細かく,しっとりと湿潤していて,かぜなどをひくとすぐ発汗して,頭痛,悪寒を訴えやすいものを目標にします。また寒冷によって起こる腹痛などにもよいことがあります。桂枝を用いる冷えのぽせ は紅潮といった程度のもので,黄連の使用目標となる赤い顔ではありません。自律神経の失調を認める人の多くに冷え症を認めます。血液の循環をよ くすることによって冷え症が改善することがあります 。その意味で駆瘀血剤を用いて瘀血に伴う冷えを治療することも少なくありません。瘀血の徴 候があって冷えを訴えるものによいのです。

桂枝茯苓丸は実証の瘀血に伴う冷えに用います 。瘀血の冷えは下肢および腰部が冷えて,反対に頭がのぼせるものが通常であります。腹部は弾力に富んで緊張のよいものが多く,瘀血の徴候,すなわち皮膚 ・粘膜の暗紫色化,臍静脈の拡張,口乾,月経異常,黒色便,痔 ,下腹部の抵抗と圧痛などの症状のあるものを目標にします 。桂枝は血行を盛んにし ,桃仁,牡丹皮は癖瘀血去り,芍薬は筋肉の痙攣を緩和し,血液のうっ滞を散し茯苓には利尿,強心作用があり,緩和剤 としての作用を兼ねるのであります。

桃核承気湯 は,桂枝茯苓丸より急迫状の徴候がみられ,便秘の傾向が認められます。瘀血の症状に加え,特有の腹証である小腹急結があります。 これは左下腹部腸骨窩に索状物を触れ,この部分を擦過性に圧迫しますと 激しい圧痛を訴え,患者は思わず足を縮める徴候です 。その他,頭痛,冷えのぼせ,精神 ・神経症状などがあるものに用いられております 。本方中にも桂枝が含まれているのであります 。

 その他の重要処方としては加味逍遥散・五積散があります。加味逍遥散は,更年期の不定愁訴に伴う冷え症に用いてよいことがあります 。虚弱な 体質の婦人で手足が冷え,頭痛,頭重感,めまい,発汗,動修,冷感,不眠,いらいら,抑うつ感などの精神神経症状を訴えることがあります。 時々全身が熱くなり,よく肩が凝り,疲れやすく,月経不順や帯下があり, いつも申し分の絶えないものに用いてよいのです。

五積散は,中年の女性の冷え症に用いることがあります。一般に寒冷および湿気に損傷されて発症する諸病に用いて よく奏効するといわれており ますが,顔色がやや貧血気味で,上半身に熱感があって下半身が冷え,腰または下腹などが冷えて痛み,脈は一般に沈んでいるものが対象となるこ とが多いのです。津田玄仙は,本方を用いる目標として,腰冷痛,腰股攣急,上熱下冷, 小腹痛の 4 つをあげております 。冷え症で,月経不順や無月経になった場合や,冷房がひどくこたえる人に用いたり,虚弱で冷え症の女性の帯下に用いたりします。陰虚証で冷え症の甚だしい場合には附子を加えて用いるとよいのであります。

甘草乾姜湯は,手足の厥冷,多尿,多唾を目標として用います 。医師の誤治やショックによって急激に手足の厭冷,煩躁,嘔吐, 口内乾燥などを 起こした場合に頓服として用いたり,平素から冷え症で,尿意頻数,多唾, めまいなどのあるものにも使用いたします。本方に茯苓と朮を加えたものが苓姜朮甘湯であり,人参と朮を加えたものが人参湯であります。本方に附子を加えたものは四逆湯で,激しい下痢に嘔吐を伴い,手足の厥冷する ものに用います。急性の吐瀉病で一般状態が悪く,脈も弱く, 予後が心配 だと思われる時に使用いたします。

以上主として,エキス剤として薬価基準に登載されている処方を中心にしてお話をいたしました。冷え症にはいろいろの原因があります 。したがって冷えを治すにもいろいろのアプロ ーチの方法があるわけで,漢方的な考え方を参考にして病因を究明し,それぞれに対応する治療を優先される ことが大切であります。

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