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  • 執筆者の写真Nakamura Mineo

傷寒論解説(7) ~桂枝加厚朴杏子湯・桂枝加附子湯・桂枝去芍薬湯・桂枝去芍薬加附子湯~



札幌 漢方 中村薬局 傷寒論

藤井 美樹  日本漢方医学研究所理事

桂枝加厚朴杏子湯・桂枝加附子湯・桂枝去芍薬湯・桂枝去芍薬加附子湯

本日はテキストの85頁最後の行の「喘家」から始めます。まず原文を読んでみます。

桂枝加厚朴杏子湯 「喘家には桂枝湯を作り厚朴、杏子を加うるを佳とす」。 この喘家というのは平生かぜなどをひくとゼイゼイいってすぐ咳をする、あるいは喘息を持っていてかぜをひくとそれが強くなるとか、あるいは子供さんなどでかぜをひくと喘息性気管支炎、ちょうど喘息のような状態を呈するというような人、平生から喘という病気を持っている人という意味です。喘家の人には桂枝湯を作って、厚朴と杏子を加えるとよろしいという意味です。

 これは、薬方としては桂枝加厚朴杏子湯、あるいは別名を桂技加厚朴杏仁湯(杏子は杏仁のことでアンズの種子です)ともいい、桂枝湯の加味方です。桂枝湯は前にもお話があったと思いますが、桂枝湯証というのは大体において体が弱くて、かぜなどひくとなかなか治りにくく、疲れやすい、汗が自然に出る、あるいは寒けがする、少し熱が出るというようなことがあるわけですが、桂枝湯の向くタイプの人が喘息のようになって、ゼイゼイと喘鳴が出た場合には厚朴と杏仁を加えた方がよいということです。

 大塚敬節、矢数道明先生の『経験・漢方処方分量集』によると桂枝、芍薬、大棗、生姜、杏仁、各々4gで、生姜はひねしようがですが、乾生姜を使う場合は1gとします。それに甘草2g、厚朴1gを加えた処方です。すぐにかぜをひいてゼエゼエいうというような場合、とくに体の弱いタイプのお子さんなどでは、麻黄の入った薬方を使うと、体が疲れたり、食欲がなくなったりします。そういったお子さんには桂枝加厚朴杏仁湯、あるいは桂枝加厚朴杏子湯を使います。 私は割合にこれを使う場合があります。症例は大正六年生まれの家庭の主婦ですが、体が弱く、かぜをひくといつも咳や痰が抜けず、普通のかぜ薬を飲むとどうも胃に障ってかえって疲れやすくなり、長い間かぜひきの状態が続いています。そこで漢方がよいのではないかと、漢方治療を求めて来られました。みますと体が痩せていて、おなかにも全然力がなく、聴診器をあてると気管支に少しラッセル音も聞こえて少しゼイゼイいっています。

 この方に桂枝加厚朴杏子湯を使ったところ、だんだん喘鳴がとれてきて咳や痰が少なくなり、それとともに体に力がついて元気になってきました。今は他の薬方を使っていますが、よく効いた例です。

「およそ桂枝湯を服して吐するものは、その後必ず膿血を吐するなり」。 桂枝湯を服して吐くものは、その後必ず膿血を吐くということで、意味がよくわからない文章です。ご承知のように、『傷寒論』は三世紀の初めごろに張仲景によって編集された医学の古典ですが、そのままの形で現在伝えられているわけではありません。その間散逸し、それをまた王叔和が撰次して、その後伝えられてきているもので、いろいろな文章が混ざっていたり、順序が違っていたり、また後の人によって何か書き加えられたものがあるといわれています。これは後人が書き加えたものではないかといわれている条文です。

桂枝加附子湯 「太陽病、汗を発し遂に漏れ止まず、その人悪風し小便難く、四肢徴急し、もって屈伸しがたきものは、桂枝加附子湯これを主る」。 これは治療が適切にいかなかった場合に、証が壊れてしまって壊病になってしまうということがありますがその壊病の一つの例であります。

太陽病であって発汗剤を使ったが、それが適切でなかったために、汗は出たけれどもどんどん出て、とうとう汗が漏れて止まらなくなってしまった。そしてその結果、その人が寒けがして、小便は出ることは出るけれどもポトポトと出て快通せず、手足が少しくひきつれて屈伸がスムーズにいかなくなった。これは、もはや桂枝湯証ではなく、桂枝加附子湯の、主治であるということです。  「方七」として、「桂枝(三両、皮を去る)、芍薬(三両)、甘草(三両、炙る)、生姜(三両、切る)、大棗(十二枚、擘く)、附子(一枚、炮じて皮を去り、八片に破る)」。  現在一両は大体1.3gくらいに換算した方がよいといわれています。桂枝三両の皮を去るというのは、桂枝の表面にある粗皮を去るということです。甘草は棒のままになっている甘草を炙って、できるだけスムーズに薬が飲めるようにします。生姜(ひねしようが)3両、ナツメ十二個を一つ一つ全部まとめて切ってしまいます。それから附子ですが、一枚を炮じて皮をけずり取って八片に破って使うということです。附子はトリカブトの根で、母根についている根が附子であり、劇薬として有名ですが、漢方としては大切な薬であって、体の新陳代謝の衰えている人とか、心臓の力が弱っている人の場合に、どうしてもこれを必要とします。

「右六昧、水七升をもって煮て、三升を取り、滓を去り一升を温服す。本いう桂枝湯今附子を加え、将息は前法の如くす」。 一升というのは大体現在の一合(180ml)と考えてよいわけです。将息というのは薬の分量とか、薬を飲む時間とかを、その都度臨機応変にやっていくということです。 これは、汗が出すぎて止まらなくなるために、体液がだんだんなくなってきて、からだの状態が悪くなってくる、そして太陽病であったものが次第に証が壊れて、新陳代謝が下がってきて体液がだんだん失われていき、その結果いろいろめぐりが悪くなって子足がひきつれ、自由に曲げることができなくなるので、附子を加えて寒を温めるというふうに、この薬方は作られています。

臨床的にはここにあるように、かぜをひいて治療したが、いつまでも汗がなかなか止まらないし、そして寒けがするという場合に桂枝加附子湯を使います。それから手足がひきつれるとか、あるいはそのために屈伸がうまくいかないという場合の応用として、たとえば脳出血の後遺症による半身不随、神経麻痺などにこの桂枝加附子湯を用います。  それからこれに関連して、本朝経験方として吉益東洞先生が桂枝加附子湯に朮を加えて、桂枝加朮附湯というのを創方しています。それは桂枝加附子湯の証に、関節が腫れたり痛んだり、あるいは小水の出が悪かったりという場合に、桂枝加朮附湯として使います。さらに胃内停水があって振水音が聞こえたり、眩暈がしたり、動悸がしたりする場合には、茯苓を加えて桂枝加苓朮附湯として使う場合があります。  この桂枝加朮附湯を私は日常の臨床によく使っています。関節リウマチであったり、神経痛であったり、脳出血の後の半身不随などに使うと、ひきつれた痛みがとれて、少しずつ麻痺が回復してくる場合もありますし、リウマチの人などは次第に痛みがとれてきます。  こういう場合にむくみのある人はだんだん水気が取れてきて、体がスマートになっていくことがみられます。

桂枝去芍薬湯 「太陽病、これを下して後、脈促胸満するものは、桂枝去芍薬湯これを主る、方八。(促は一に縦に作る。桂枝(三両、皮を去る)、甘草(二両、炙る)、生姜(三両、切る)、大棗(十二枚、撃く)。右四味、水七升をもって煮て、三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本云う桂枝湯、今芍薬を去る、将息は前法の如くす」。 これは桂枝湯の処方の中から芍薬を取り去った処方です。この条文も壊病の例です。脈促の促は急促の促で、短促の脈のこと。太陽病を下して正気(エネルギー)が失われて起こる脈であり、胸満は胸内煩懣のことで(懣はもだえる意)、下した後に邪気が上衝することによって起こるとされています。

この条文は胸満であって腹満ではないわけです。腹満があれば桂枝湯に芍薬を加えますが、桂枝湯の中から芍薬を取ることによって、桂枝湯の中の桂枝の方の働きがさらに支えられるというか、それで上の方の煩わしく一杯になっているような感じが取り去られるということではないかと思います。胸の中が煩満している場合に、芍薬を取ることによって陽が助けられて、桂枝の働きがもっと出てきて胸満がよくなっていくと解釈してよいと思います。その場合に、腹満とかおなかの拘攣といった、ひきつれるとかおなかが一杯になるというような症状がないわけです。それで芍薬を取り去るということであると思います。

桂枝去芍薬加附子湯 「もし微笑、のものは桂枝去芍薬加附子湯これを主る」。 これは前の条文を受けて、もし悪寒がするものは、桂枝去芍薬湯に附子を加えた桂枝去芍薬加附子湯が主治するということです。微寒というのは徴悪寒で、微は幽徴の微で、表証の悪寒ではなく、裏証の悪寒を表現しています。

方は「桂枝(三両、皮を去る)、甘草(二両、炙る)、生姜(三両、切る)、大棗(十二枚、擘く)、附子(一枚、炮じて皮を去り、八片に破る)」。  前にも出てきましたが、附子を炮じるのは、この毒性をできるだけ少なくするためであり、炮じることによって滅毒する、このことを漢方では修治といいます。つまりその薬をうまく利用するために炮じるわけで、いわゆる炮附子にして用いた方が安全に使えるということです。 「右五味、水七升をもって煮て三升をとり、滓を去り一升を温服す。本云う桂枝湯、今芍薬を去り、附子を加う。将息は前法の知くす」。  この桂枝去芍薬加附子湯は、単方として臨床的にはあまり使われず、使う場合には桂枝去芍薬湯に麻黄附子細辛湯を加えた処方、いわゆる桂姜棗草黄辛附湯として使うことが多いものです。

 まとめ 本日のお話の中で申し上げた薬方は、桂枝加厚朴杏子湯(桂枝加厚朴杏仁湯)、桂枝加附子湯、桂枝去芍薬湯、桂枝去芍薬加附子湯の四つです。そしてその中に出てくる薬物は、桂枝湯加減ですから、まず桂枝湯、つまり桂枝、芍薬、大棗、生姜、甘草という五つの生薬、そのほかに厚朴、杏仁(杏子)、附子と、これだけの薬物が出てきます。  実際に『傷寒論」の中の薬方を、現代的に臨床的に生かすという立場からみますと、本日の薬方の中で一番よく使うのは桂枝加厚朴杏子湯と桂枝加附子湯で、それから先ほど申し上げた吉益東洞先生の経験方である桂枝加朮附湯および桂枝加苓朮附湯がよく使われます。  桂枝加厚朴杏子湯の中の厚朴は、筋肉の非常につっぱったものを緩めるとか、あるいは痙攣的なものを緩めるという作用があり、また杏仁の中には鎮痛的な作用もあります。先人の治験例をみますと、かぜをひいて咳がひどくて、おなかがひきつれてとても痛んで苦しむというような場合に、桂枝加厚朴杏子湯の証があり、それを使うと咳をするたびにおなかやからだに響いたような咳が次第にとれますし、だんだんからだのひきつれる状態が治ってくるということがみられるわけです。それから、弱い子供でかぜをひくといつまでもゼロゼロしているいわゆる端息性気管支炎を起こす子供にこの桂枝加厚朴杏子湯を与えると、そういった状態がだんだん起きにくくなります。さらにひきつづきその薬を使つていますと体質的にだんだん丈夫になり、そういう症状を起こしにくくなります。  桂枝加附子湯は、先ほど申し上げましたように桂技加朮附湯、あるいは桂枝加苓朮附湯として用いることが多いものですから、関節リウマチ、神経痛というような方には、かなり使っています。  私自身の経験で恐縮ですが、以前に怪我をして右の大腿骨を骨折してずいぶん苦しみました。それで一時少しよくなっていたのですが、ある時不注意から、夕方暗いところで工事現場の穴の中に骨折した足を落としてしまい、その日は緊張していましたが帰ってきて翌日からもう動くことができなくなりました。

 その時に、有名な浅田宗伯先生の治験例が書いてある『橘窓書影』をみていましたら、その中にフランスの公使の方が神経痛で苦しんでいたのを往診して見事に治された例が出ていました。そのフランスの公使の方は元軍人で、昔馬から落ちて怪我をしていて、日本の湿度が高い風土が体に合わなかったのか神経痛に非常に苦しみいろいろ治療をしたけれどもなかなかよくならなかったが、それに対して浅田宗伯先生が往診して出された薬方が桂枝加苓朮附湯であるという治験例でした。

 私も以前に怪我をしていたものですから、やはりこの薬方がよいのではないかと思い、桂枝加苓朮附湯を飲んだところよく効いて一日分でつつばっていた足のひきつれがとれ冷えるとすぐに痛んでいたのがだんだん楽になり、思ったより早く回復して仕事ができるようになりました。

 そういうことがあって、先人の治験例は大切に読むようにしています。桂枝去芍薬湯に麻黄附子細辛湯が加わった桂姜棗草黄辛附湯という処方は、気のめぐりが悪くなって腰痛を起こしたり、神経痛を起こしたりという場合に使うと、気のめぐりを一転させて見事に症状の改善をきたすことがあります。これも時々使う薬方であります。

文献

一、大塚敬節・矢数道明『経験・漢方処方分量集』、医道の日本社、一九八五年

二、大塚敬節『傷寒論解説』創元社 一九六六年

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