• Nakamura Mineo

葛根湯



室賀昭三 日本東洋医学会会長

出典・古典における用い方

傷寒論

 葛根湯は,漢方医学を代表する古典の一つである『傷寒論』がその出典であり,太陽病中篇に出ております。その条文を読んでみますと, 「太陽病,項背強ばること几几,汗無く悪風するもの葛根湯これを主る」とあります。  「太陽病の初めの時期に,項から背中まで強くこわばり,そして自然発汗がなくて,温かくして寝ていればそれほど寒くないけれども,起きた時などに寒気がするような時に葛根湯を飲みなさいJといっているわけであります。 『傷寒論』を代表する薬は葛根湯だと思われていますが,本当はそうではなくて,桂枝湯が『傷寒論』を代表する薬であるといわれております。葛根湯が出てくる前に,桂枝湯や桂枝加葛根湯が述べられてるのはそのためです。  桂枝湯や桂枝加葛根湯の場合は,自然発汗があるというのが主な目標の一つでありまして, これを表の虚証といっております。  それに反して,葛根湯麻黄湯を使う場合は,自然発汗がないということが大きな目標になるわけでありまして,これを表の実証といっております。 この葛根湯は,かぜのひきはじめに使います。そして太陽病ですから,頭痛があって,悪寒〈温かくして寝ていても寒い)のある場合があります。それから発熱もあります。このように太陽病で,頭痛,発熱があり,自然発汗がなく,悪風あるいは悪寒のある場合に使うわけです。そしてこの場合の脈は,緊張が相当よいということが第一条件と考えられます。 葛根湯は,葛根,麻黄,大棗,桂枝,甘草,芍薬,生姜の七味からできている処方でありまして,煎じ薬の場合には,まず葛根と麻黄を煮て,あくを取って,それからあとの薬を入れて煮るようにといっております。そして煎じ薬の場合は温かいものを飲むとよいといっておりますから,エキス剤の場合にも,なるべく熱いお湯に溶かして飲んだ方がよいと思います。

 そしてそのあとで「覆って徽似汗を取る。余は桂枝の法の如く将息及び禁忌す」とあります。これは「普段より1枚厚着をして体を温めて, うっすらと汗をかかせなさい。それ以外のことは桂枝湯の条文に書いてあるように,休養を十分にとって,ぬらぬらしたものとか,臭いの強いものは食べてはいけない」と療養や食物の注意を述べています。

 よく普通の人は,かぜをひいた時に,薬を飲んでも大事にしないで,夜遅くまで酒を飲んだりしますが,これはとんでもない間違いでありまして,葛根湯を欽んでも,普段より1枚厚着をして,うっすらと汗をかいて,病気を十分治すように療養しなければいけないわけであります。

 そして次の条文に「太陽と陽明の合病する者は必ず自下利す。葛根湯これを主る」とあります。「自下利す」とは陽明病は病邪が胃腸にいっぱい溜まっているから便秘するのですが,その時に使う下薬を飲んだから下痢をしたのではなくて,合病のために下痢をするから自下利といっているのであります。

太陽病では脈が浮いて,頭項胸痛,悪寒というのが病状ですし,陽明病では腹満,不大便(便秘)、譫語(うわごと),悪熱,潮熱,濈然として汗出ずる〈熱が体にこもって,発汗する〉というのが症状ですが,太陽病と陽明病の合病では,これらの症状が全部出てくるわけではなくて,そのうちのいくつかが錯綜して現われてくるのです。太陽病では便はあまり変化がなくて,陽明病では便秘するのが普通でありますが,太陽と陽明の合病では,自然に下痢するといっております。自然に下痢するというのは,太陽病にも陽明病にも,普通見られない症状ですが,合病となった結果として現われてきたといわれております。

 太陽病は体の表面に病邪があります。陽明病は全身から汗が出るのが特徴であって,そのために大使が硬くなって便秘するというものです。太陽と陽明が合病になった場合は,太陽病のために本当ならば発汗すべき水分が,表が塞がったために腸管に行って,陽明で出るべき汗がその道を失って,それが裏にまわって下痢になると解釈されています。こういう場合に葛根湯を使えば,陽明病の薬を使わなくても,太陽と陽明の合病は治まってしまうわけです。ここから,流行性感冒の下痢とか大腸炎,赤痢の初期の場合に用いられるわけであります。

金匱要略

 そのほかにもう一つ『金匱要略』に葛根湯は出てきまして, 「太陽病,汗無くして小便反って少なく,気胸に上衝し,口噤して語ることを得ず,剛痙をなさんと欲す。葛根湯これを主る」という条文があります。これは,今でいうと破傷風のような疾患で,ロが閉じてしまってうまくしゃべれないという時に使いなさいといっているわけでありますが,実際問題として,この『金匱要略』痙湿暍病門の条文は臨床的にはあまり使われることはないように思われます。このように葛根湯は,太陽病に使われるわけでありますが,太陽と腸明の合病,そのほかに普は痙湿暍病といったものに使われたようであります。

薬能薬理

 葛根湯は今申しましたように七つの薬味からできておりますが,葛根はマメ科のクズの根を乾燥させたもので, 主成分はダイゼインdaidzeinというものであるといわれております。daidzeinは鎮痙作用,解熱作用,消化管運動亢進作用,循環系に及ぼす作用が強いといわれています。味が甘く,平〈温めるでもなく,冷やすでもない〉であり, 「渇をとどめ津を生じ〈体の中に液体を生じ),腠(毛穴〉を聞き,汗を発し,肌を解し,熱をしりぞけ,脾胃虚弱者の泄瀉(下痢),傷寒中風,陽明頭痛,血痢,温虐,腸風,痘疹を治す」とされ,発汗,解熱,鎮痙薬として,熱性病とか感冒とか,首すじや肩や筋肉の凝りなどに使われますが,葛根は酒毒を解すといって,お酒の酔いによいともいわれております。

 また『薬徴』では「項背部のこわばるを主治する,かたわら喘咳して汗出ずるを治す」と述べてあります。  葛根湯のもう一つの主役の麻黄は,マオウ科のEphedrasinicaの地上茎を乾燥したもので,主成分はephedrineであります。中枢興奮作用とか,交感神経興奮作用とか,血圧降下作用,鎮咳作用があります。とくに麻黄と桂枝を使った場合には発汗作用,抗アレルギー作用があるとか prostaglandin生成阻害作用があるといわれております。『薬徴』を読んでみますと,喘息様の呼吸困難とか,咳嗽とか,皮下の水をおうとされ,浮腫を治すといわれています。また悪寒の弱いものとか,汗の出ないもの,体の痛み,関節の痛みなどに使用されます。『金匱要略』では,全身に黄色がかった浮腫などにもよいとされます。,辛くて,わずかに苦くて,温める作用があるといわれております。 芍薬はボタン科のシャクヤクの根を乾燥させたもので,主成分はpaeoniflorinです。鎮静,鎮痙,鎮痛作用があり,また末梢血管拡張作用,抗炎作用,抗アレルギ一作用,免疫賦活作用,胃腸運動促進,抗潰瘍作用があるといわれております。

 『薬徴』を読みますと,筋肉が硬くなってひきつれるものを治すとか,腹痛,頭痛,知覚麻痺,疹疼痛,腹部膨満,咳,下痢,化膿性のできものを治すとあります。味は少し苦くて,わずかに冷やす作用があります。収斂,緩和,鎮痛,鎮痙薬として広く使われるわけであります。

 それからもう一つの主薬の桂枝は,クスノキ科カツラ,あるいはその同族植物の樹皮を乾燥したものであります。これも解熱作用,鎮痛,鎮静,鎮痙作用,末梢血管拡張作用,抗炎症,抗アレルギー作用が広く認められております。漢方的にいいますと,衡逆(のぼせ,下から突き上がってくるもの〉を治すとか,突き上げの激しい奔豚のようなものを治すとか,あるいは頭痛,発熱,悪風して汗出でて,体の痛いものを治すという幅広い作用があり,味は辛く,甘く,体を温める作用もあります。

大棗はクロウメモドキ科のナツメの果実を乾燥したもので,甘くて,平温,わずかに温める作用がめります。緩和,強壮,利尿薬として,筋肉の急迫,牽引痛,咳嗽,煩燥,身体の痛みなどに使われております。攣急,拘急を治すとか,筋肉の痙攣を治すとか,あるいは咳嗽,奔豚,煩躁,身疼,胸痛,腹中痛など疹痛の鎮痛作用があるといわれております。

 それから甘草はマメ科のナンキンカンゾウの根で,主成分はglycyrrhizinであります。glycyrrhizintこは,鎮静,鎮痙作用,抗消化性潰瘍作用とか,慢性肝炎に対する効果,抗炎症作用,抗アレルギー作用,性ホルモン様の作用など,非常に広い作用があります。甘草は甘くて平ですから,温めるでもなく,冷やすでもない,熱薬とともに用いるとその熱をゆるめ,寒薬と使うとその寒をゆるめるというように,薬の調節作用があります。『薬徴』を見ますと「急迫を主治するなり,ゆえに裏急,急痛,攣急など腸の痛みやいろいろのところの痛みあるいは牽引痛を治す。厥冷,煩躁,衝逆を治す。諸般の急迫の毒を治す。また胃の疾患に対しても効果がある」といわれており,胃痙攣,胃痛,胃潰瘍,十二指腸潰瘍にも使われますし,のどの痛みにも使われます。甘草は緩和,緩解,鎮咳,鎮痛薬として広い使い道があります。

生姜はショウガでありまして,辛くて微かに温め,寒を散じ, 冷えを温めて,表を発し(発汗作用がある),鎮吐,去痰の効能があり,傷寒,頭痛,嘔吐,胃寒,腹痛,咳嗽の症状に使われます。また嘔を治し,乾嘔とむかむかかする,おくび,しゃっくりというようなものによく使われます。以上七味が一緒に合わさって,葛根湯はいろいろな働きをするわけです。

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