• Nakamura Mineo

不妊症・男性不妊



飯塚理八 リプロダクションアカデミークリニック飯院長(慶應義塾大学名誉教綬)

本日は不妊症における男性因子についてお話ししまして.その治療法.とくに漢方療法にも言及したいと思います.  健全な夫婦生活を2 年経過しても妊娠しない場合,不妊であると学会では定義しております。ここでは.妊娠はするが.途中で流産・早産を繰り返してしまう.いわゆる習慣性流・早産については触れません。また.一度出産しても. 2年以上たっても妊娠しないものを続発性不妊といっておリますが. これは不妊の範疇であります.  さて.不妊ではないかと疑いを待ったならば.専門医に相談していただくというのが通常であります. 女性は基礎体温表をつけて.性周期のチェックポイントに従って順序よく検査をするよとであります。排卵のあること.受精が行われる卵管に異常がなく通過性のあること.排卵後はきれいな基礎体温で.子宮内膜の発育が良好であるということが大切な要因です.

男性不妊の検索

 女性側の検査項目は,大切なものでも数点ありますが、男性側は精子の有無.ことに元気のよい精子が子宮.卵管に上昇しておればこれは大変よいことで.これを調べることが大切なキーポイントであります。  それで精液検査と post coital test (これは最初にやったフーナーの名前をとってフーナーテストともいっております)。このの2つが非常に重要な2大要因であります。   私は、男性側は良好な精子をl排泄すれば何とかなるわけですから.不妊夫婦の検査はまず男性側からチェックするべきで男性を初めに調べなさいということを. この30年来提唱してまいりました. 男性要因をクリアーしてから,女性側をじっくり検査していく方が得策だと思います。今では少なくなりましたが,女性側の検査,治療に3年も明け暮れて,ようやく好転してきたので,最後に夫を調べたところ無精子であったというようなナンセンスなこともありました。非常に心すべきことと思います。またときに,夫婦という体裁をとっておりましでも,実質的に夫婦生活を送っていない人々があって,最近私は3例ほど経験しております。いわゆるimpotenceで,射精も起きておりません。その原因を確かめて,早期の治療, ときには妻側も含めて,いろいろな検査をすることが必要ですが,その原因は,心因性,器質性など多様です。その治療法も現在注目を浴びている分野でありますが,その予後に関しては,必ずしも楽観を許さないと思います。古来より精力増強剤としての漢方療法は,どのくらいの地位を占めるのでしょうか。一時衰退している能カを回復するには,人参湯大柴胡湯八味地黄丸などが使用されておりますが,その実効果についてはケースバイケースというところであります。精液検査は, 72時間の禁欲期間を置いて,用手法にて広口瓶に採取させて,およそ1時間以内に検査をいたします。コンドームにとりますと,その全量を測りかね,またときにはパウダーなどで精子が死滅するので,これはあまりよくありません。日本人の標準として,射精液が3ml,精子濃度が5000万/ml,運動率が80%以上としております。会運動精子数を標準とする数え方も便利であります。WHOその他で標準を出しておりますが,私どもは,精子濃度3000万/ml以下,運動率50%以下は要注意で,治療の対象としております。もちろん男性側の精液状態が良好であっても,女性性器内の精子の上昇性,子宮腔,卵管へと上昇していかなければ,妊娠の成立はみられません。このためにもどうしても性交後フーナーテストがきわめて必要な要因であります。これは予定排卵目前に3日間禁欲して,いわゆる排卵日(これはドンピシャリとはいかなくても,頸管粘液が0.2ml以上吸引できればよいのです)に性行為を行いまして,膣,子宮頸部,子宮腔への精子の上昇性,その運動性,数,奇形混在率を観察するものであります。できれば性交後6時間以内がよいとされております。次善の策としては12時間以内としております。これは俗に相性,適合性の検査であり,物理的,器質的な障害のほかに,免疫的な障害も含まれるとされておりますが,私は精子の上昇性については,免疫阻害説はあまりとっておりません。したがって1回の検査で結論を急がず,数回のフーナーテストを繰り返す必要があります。

 精子1回と卵子1個の結びつきが受精ですから,なぜこのような大量の精子が必要なのでしょうか。実際のところ憶説や仮定の域を出ないものであります。膣より子宮腔,それから卵管膨大部への道程は,精子にとっては大変なエネルギーを要する道程で,途中で死滅するので,そういうことを予測しての自然界の成り立ちとして,数億の精子が排池されるのではないかと思われます。しかし自然の受精の場合は,排卵した卵子の周りを数百個の精子が取り囲み, 1個が侵入を完成するのですから,このへんのメカニズムについては,古くて新しい現象と定説が入れ代わり立ち代わり,今も盛んにディスカッションされている問題であります。

人工授精

ことにヒトの体外受精が1978年に成功して以来,授精現象と着床周辺の新事実が次々と解明されつつあります。体外受精は,本来は卵管に欠陥のある婦人を救済するための手段でしたが,精子の少ない場合に,卵子と精子を受精させて,卵管や子宮燈内へ戻すことで,今まで難治であった例に妊娠成立をみるに至りました。

 しかし本流は精子上昇阻害と精子減少症には人工授精であります。ことに1000万/ml以下は人工授精の適応となります。従来は,子宮腔内に0.5ml以内の精液を,授精針もしくはカテーテルで注入しておりましたが,最近は,子宮鏡を駆使して排卵側の卵管内に精液を注入する,いわゆるヒット法が登場してまいりました。細い卵管腔内注入ですから,その量など注意をする必要があります。しかし,今まで子宮腔内法で何回実施しても成功しなかったものが成功に至った例もあり,今後は有用な治療法といえるでしょう。それから,精液を洗浄して精子を濃縮する方法が現在は主流となってまいりました。パーコール液などの洗浄液を用いて,全精液の中から,運動性良好な精子を抽出することが可能となり,またこの際パーコール液により精液中の細菌や細胞成分が払拭されるので,ことに今問題になっておりますAIDS予防には,これが画期的な方法ということがわかってまいりました。

 そしてさらに自然の授精を待たずに,顕微授精(microfertilization)という方法が今非常に注目されております。これは精子1個を卵子内に注入する方法で,外国ではすでに臨床に応用され,続々と出産例が現出しております。本邦においても基礎的な検討は十分終えている段階であります。授精に必要な精子数を今模式的に申し上げますと,自然の場合は億の単位,人工授精は1000万の単位,先ほどのヒット法の場合は100万の単位,体外受精の場合は10万の単位,そしてこの顕微授精の場合は1000の単位というふうになってまいりました。今まであきらめていた人々には大変な福音となる方法がいろいろと展開してまいりました。

男性不妊と漢方療法の応用

このような推移を踏まえて,精子数の非常に少ない人,あるいは運動性の具合の悪い人にも,漢方療法を応用することについて触れてみたいと思います。  従来より造精機能の改善にホルモン剤,ビタミン剤などが用いられてまいりましたが,最近は精子数,その運動率を向上するのに漢方療法も注目されております。多少の副作用はあるにしろ,日常の服用から入れるので便宜的な効果ともいえますし,何よりも,古来よりの経験的実証性が私どもに安心感を与えるものですから,種々の成分が重合して,単味の時よりは複合的な威力を発棒してくる漢方剤は大変魅力的であります。しかしそのメカニズムの解明にいささか難点があったのですが,最近は,西洋医学的薬理分析を導入して,個々の成分と総合的な作用が研究されつつあります。たとえば芍薬甘草湯が,血中テストステロン値を下げ,またプロラクチン値も抑制する効果があることが解明され,続々と臨床に応用されつつあります。漢方では「証」とか「気」とかというむずかしい解析が,西洋医学を主流としてきた者にとっては,はなはだ取りつきにくいものになっていることは否めません。

 私は漢方の大家より2つの教えを受けて感銘を受けてまいりました。1つはその薬剤が効くか効かないかは,本人の感じで,その薬がうまいかまずいかで大体決まる。それから,たとえば実証には桂枝茯苓丸、虚証には当帰芍薬散と公式にはなっていても, 2週間服用して適応にあてはまらなければ取り替えてよい。すなわち漢方的診断法の下地があることは結構ですが,まず投薬をしてみて,その反応をみてから,時宜を得て変剤することも1法と,はなはだ応用的なことで,実際的だと思われます。

代表的漢方処方

さて,男性不妊の代表的な薬としては八味地黄丸であります。元来これは下半身の衰え,排尿異常,夜間多尿などに効用ありとされておりますが,男性不妊にも最近は多用されております。8種の生薬から構成され,六味丸の成分に附子と桂枝が加えられておりますが,これは末梢血管拡張作用を有します。古来腎虚の特効薬として知られておりました。  最近私は,これに細網内皮系機能賦活作用,補体活性化作用のある十全大補湯を併用しております。最低3カ月,半年くらいを一応のめどとして服用させますが, 1年以上服用しでも効果が認められない時は中止した方がよいでしょう。この成分の中の地黄は,強壮,強精作用がある反面,胃 腸症状を起こし,食欲減退,下痢をする人がいます。

 もともと胃腸の弱い人には適しませんので,この場合には補中益気湯に変えます。薬用人参が主成分でありますから,疲れやすく,ふだん胃腸が丈夫でない人の体力増強に用いられる薬ですので,人参自体にも造精補強作用があることとあいまって,この薬は有用と思われます。八味地黄丸を服用して副作用のない人にも,補中益気湯を併用させることは大変有意義と思われます。生体での造精作用は複雑な因子が関連しますから,両面あるいは多面的な薬理作用を持つものが有効性を示していくものと思われ,その点,漢方製薬の妙味が発揮されると思います。

 とくに最近の研究では,補中益気湯の薬理作用は造精低下症,とくに精子の運動率を上昇させるデータが続々と出ております。服用後4週目より効果が認められ. 12週目くらいでは着目すべき運動率の向上が認められるというデータがあります。精子数を増加する点では,八昧地黄丸やこれに牛膝や車前子(これは抗アレルギ一作用や利尿作用があります)の作用を加えた牛車腎気丸が有効であります。精子濃度を高めるものと,精子の運動率を上昇せしめるものの併用が,目的を達する道ともいえるので,八昧地黄丸に補中益気湯の併用が好ましいわけです。また八味地黄丸は,もともと糖尿病にも使われるので,糖尿病や高血圧の人にも安心して使用されます。以上,男性不妊のうち造精作用が賦活されるものとして,八味地黄丸,十全大補湯,補中益気湯,牛車腎気丸などが有効性があるとして使用されております。まず2週間くらい服用させてみて,飲みにくい,胃腸症状が出た,下痢,腹痛,発疹など,何らかの副作用があった場合は,服用を見合わせて処方を変えた方がよいと思います。その場合,体重,体質的ないろいろなものを勘案し,念頭に置いて,いわゆる実証,虚証というようなこともある程度勘案してまいります。八味地黄丸はいわば実証型,補中益気湯は虚証型ともいえますが,必ずしも判然としないことがあるので,漢方の大家の松田邦夫先生がよくいわれております「その薬がうまいか,あるいはまずいか」というようなことは,実に深い味わいのあることで,その人に最も適したものは,その薬がおいしいのであって,ずっと飲んでよい,というようなこともいえるわけであります。

人工授精の発達と漢方治療の活用

薬を服用してから精子濃度が上昇し,運動率がいつまでも良好な状態を得ているというわけにはまいりません。この間常に妻側の受精能力を高める努力が必要であり,いわば白球を投げるピッチャーに対して,これを上手に捕球するキャッチャーの向上性ということが必要であります。すなわち一方の夫あるいは妻の方のどちらかの機能が少し低下していても, 一方の機能が高い場合には,お互いを相補うという意味もあるからです。

 男性不妊のうち精子増強策に対する薬物療法として,漢方療法は最近はfirst choiceの様相を呈してまいりました。生薬以外の便利な包装が出てきたからであります。日常私どもが見聞することですが,男性はわりに薬を飲み忘れたり,わざと飲まない人が多いということで,これは実際に本人に服用前より注意を喚起しておく必要があり,初歩的なことですが,ある程度きちんと飲まないと効かないというようなことをよく説得しておくわけであります。

 すなわち漢方療法においては,速効性を期待しではならないし.少なくとも3カ月の服用が肝腎であること,それからじわじわと効巣が現われてくるということを説明しなければなりません。この間これ以外に人工授精やヒット法,あるいは体外授精も1つの手段として応用されてしかるべきと思います。造精作用のまったくみられない無精子症に対しては,いかなる療法も無効であり,本人たちの希望があれば非配偶者間人工授精,いわゆるAIDが唯一の挙児対策であるのは今でも変わりません。

 従来は500万/ml以下の人々も無精子症の範疇に入るということで悲観的でした。それらのものの多くは,対策としてはギブアップでした。しかしヒット法の開発や,パーコール液などによる精子の洗浄濃縮法の開発により,きわめて重度の精子減少症にも光明が与えられ,体外受精もいよいよ解禁されて,これに拍車をかけてきたということで,顕微授精(micro.fertilization)は,1個の精子の注入により授精が完了するのですから,画期的なことといえます。そうすると,自然界の数を頼むというしがらみから抜け出すことも可能になりました。精子減少症の漢方療法このような段階に入っても,漢方療法は依然として重要な手段と思われます。数や運動率の向上もさることながら, 1個の精子の授精能力の向上に漢方薬がカを添えていることは, しばしば経験しております。夫の薬剤服用中あるいはその後,妻が妊娠した例を解析すると,精子濃度が向上,あるいは運動性も向上しているというので妊娠するのは当たり前ですが,数字の上ではそのような著変がなくても,待望の妊娠成立をみることがままあるからであります。1つには精子の質の向上があり,これはハムスターテストなどで最近はある程度証明できますが,まだ詳細が不明な向上分があると思われますので,よくわからない点もあります。

閉塞性無精子症の場合は,睾丸内あるいは副睾丸内に精子が完熟しないまでも存在し,これを採取することができます。30数年前ですが,私は睾丸内精子の動態について研究をしたことがあります。その睾丸内から直接採取した精子が, 5%のブドウ糖液に浮遊して,これもemulsionしますと運動してくれることを観察しました。しかしこれを人工授精などしても,なかなか成功には至りませんでした。この睾丸内の精子の成熟に対しては,副睾丸を通ってそこでいろいろな過程を経て成熟する,刺激とかあるいはその中に成長させる物質が含まれているということもいわれております。まず傘丸の中だけでは成熟,あるいは授精能力が保有きれないで,副睾丸尾部に至らなければだめだというふうに,最近の研究ではなっております。しかし最近は閉塞性の無精子症に対し,副睾丸の尾部より直接精子を採取して,あるいはここに人工精液瘤というprotheseを造設して,そこにプールされた精子による人工授精を試みての成功例があります。このような状態の時にも,あらかじめ精子の受精能力を高めておくために, premedicationとして漢方薬を服用させておくことが必要だと思います。

impotenceと漢方治療

最後にimpotenceのことに触れてみたいと思います。これは古くて新しいことで,器質的なもの,中枢神経,末梢神経,内分泌的疾患のものや,薬物中毒的なものなど,いろいろな原因があります。そこでそれぞれの対応が必要なわけですが,最近この中で注目されているのは人工射精法であります。すなわち生殖可能な婦人の夫が,いろいろな意味で射精陣害を起こしている場合に,これにダメージを与えてはいけないのですが,少しgewaltigな方法として,人工的に射精させるという方法が開発されてまいりました。  まず1つは脊髄クモ膜下薬物注入法であります。次はぺニスとか直腸から,いろいろな方法でバイブレーターを使って刺激する方法,こういうものは動物ではよく使われていたのですが,人聞にも使われておりまして,従来自然に放っておきますと射精のできない人に対して,たとえば脊髄損傷の方などに,脊維に薬物を注入して射精をさせ,その妻に妊娠させ,出産させるというようなこともできるようになりました。これは大変な進歩と申しますか,この場合には性行為ができなくても,射精液の中に含まれている精子を採れば,妊娠せしめうることですから,それによって幸せなご夫婦の待望の挙児を得るということでは目的を達するわけであります。一方,このimpotenceの機能的なものに,心因性,精神性のものがあります。いわゆる成田離婚というような形のものもありますが,これには現代病といいますか,なかなか原因が多岐にわたっておりまして,そのストレスから意外にimpotenceになっているような場合があります。このような精神的ストレスのものには, 柴胡桂枝乾姜湯などというような薬を使って,精神を安定させて,長い時聞をかけてしていきますと,うまく性行為が行われたというようなデータも出てきましたので,漢方薬はこの面でもimpotenceに対して, 100%効果をあげるというのはなかなかむずかしいのですが,有用であるというふうにいわれております。

<お問い合わせ先>

札幌市白石区南郷通7丁目北5-1 駐車場有 有限会社  中村薬局 認定薬剤師 中村峰夫   011-861-2808 https://www.kanpo-nakamura.com/ ☆野菜・果物、調理法について詳しく知りたい方☆ は「マカリイズマーケット 青果部

http://maccali-inc.com/


5回の閲覧