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不正性器出血・帯下・膣炎・外陰掻痒症



福島峰子 秋田大学医療技術短期大学部教授(学部長)

不正性器出血の漢方治療

まず,不正性器出血でありますが,これは内性器のどこからの出血も含まれますので,その部位の検討が必要です。多くは子宮内膜からのものであります。出血が妊娠に関係したものであるかどうか,年齢はどうか,月経周期との関係はどうか,器質的疾患はないのかなどの現代医学的アプローチで,出血の原因の追及をすることが重要であります。

不正性器出血に対しては現代医学的治療が主となると思われますが,漢方薬はその補完的な意味で応用したり,通常の治療に抵抗するものが漢方療法の対象になりましょう。また無排卵によって機能性子宮出血を繰り返す場合,排卵を誘発して正常な内分泌リズムを惹起させることが基本的治療でありますが,結婚していない場合,毎月クロミフェンなどの排卵誘発剤は必要でなく,せいぜい3カ月に1回くらいで十分でありますので,排卵誘発剤を休んでいる間当帰芍薬散温経場桂枝茯苓丸などを連用しつつ,止血効果とともに基礎体温が改善することを期待することができます。

 また子宮筋腫などで過多月経,頻発月経,不正出血など随伴症状がある時は駆瘀血剤を投与するとよいと思います。たとえば実証には桃核承気湯,中間証には桂枝茯苓丸,虚証には当帰芍薬散が繁用されます。ただ桃核承気湯や桂枝茯苓丸のように桃仁,牡丹皮など,強力な駆瘀血剤が配合されている方剤は,一時的に経血量を増加させることがありますので,月経直前,月経中の投与は注意した方がよいと思います。

 むしろ月経直前や月経期には芎帰膠艾湯が有効なことがあります。芎帰膠艾湯は四物湯に止血作用のある艾葉,阿膠を加え,さらに甘草が含まれています。証としては虚証に対するものであり,妊娠中の不正性器出血とか,産後の出血が長引くものなどが適応であります。また止血作用のほか,性機能の正常化,成熟化も期待され,若年性機能性出血に対しでも試みるとよいと思われます。

 芎帰膠艾湯が無効な場合は,実証には黄連解毒湯,中間証には温清飲を用い,虚証で貧血状態のものには十全大補湯がよいと思います。しかし十全大補湯で胃腸障害を起こすものには,帰脾湯に変えてみるのもよい方法だと思います。

帯下・膣炎の診断

次は帯下,膣炎について考えてみたいと思います。帯下は子宮腔内,頸管,膣からの分泌物などいろいろありますが,その多くは膣分泌物であります。頸管分泌物も膣分泌物も内分泌,とくにエストロゲンおよびプロゲステロンの影響を受けて周期性変化を営むわけであります。エストロゲン活性が強いと膣自浄作用が高まり,炎症に対する抵抗力は強化されます。  したがって排卵の時期には膣分泌物のpHは酸性に傾き,頸管粘液lま増量し,牽糸性は強くなり,羊歯状現象すなわち結晶化が進みます。この時期には卵白のような,透明で粘澗な帯下が増加するのを自覚することができます。  帯下には,白い白色帯下,黄色の黄色帯下,血液の混じった血性帯下,豆腐粕様,水性などいろいろな性状のものがあります。そして生理的帯下と病的帯下に分けられます。妊娠時帯下,排卵時帯下,性的興奮時の帯下は生理的帯下であり,もちろん治療の対象にはなりません。病的帯下としては,炎症,膣内の異物,悪性腫瘍によるものなどがありまして,その多くは炎症,とくに膣炎によるものであります。原因としてはトリコモナス原虫,膣カンジダ症,細菌性膣炎,さらにエストロゲン低下による老人性(萎縮性)膣炎などが多く,そのほか頸管炎,子宮膣部びらんによるものがあります。膣内異物は小児に多いのでありますが,診断が非常にむずかしくて,細菌性膣炎として長期にわたり治療を続け一向に治らないということで,私どものところに相談に来院され,vaginoscopeで異物をみつけ,それを除去することにより,立ちどころに完治した例もあります。

悪性腫瘍によるものは多くの場合血性帯下であります。進行したものは炎症も加わり異常な悪臭を伴うようになります。これらはすべて,現代医学的方法でその原因を検討し治療を行っております。炎症によるものは,原因菌に合った抗生剤が選択され,悪性腫瘍によるものは手術的療法が行われるのが常であります。 

 それではどのような場合に漢方療法を考えるかということでありますが,1つは,炎症性膣炎であっても抗生剤が無効な時,または副作用を呈する場合,それから再発を繰り返す場合,非特異性帯下,非炎症性帯下,たとえば冷えによる場合とか老人性膣炎などでは, しばしば漢方療法が威力を発揮するのであります。

帯下・膣炎の漢方治療

 処方の選択には,寒熱,虚実,胃腸の強弱,およぴ炎症症状の強弱といったものを考慮します。帯下の状態からは白色または淡黄色で稀薄無臭のものを虚証帯下,膿黄色で粘澗放臭するものを実証帯下といいます。いくつかの代表的処方を症状の強い順,胃腸の丈夫な順で述べてみたいと思います。

 まず大黄牡丹皮湯です。この処方は体格,体質が丈夫であり,便秘傾向があり,炎症症状が強い場合に用いられます。しばしば下腹部に抵抗,圧痛を証明します。

竜胆瀉肝湯は,比較的体力のある人で,黄色膿性帯下のある場合,炎症症状の比較的強いものに用いられます。膣炎や子宮内膜炎のほかに,膀胱炎を合併する場合などによいといわれております。

桂枝茯苓丸は,体力中等度で,腹証で瘀血症状が認められるもの,すなわち下腹部に抵抗,圧痛がある場合がよいと思われます。

清心連子飲は,胃腸が虚弱であって他の処方が服用できない時に用います。体格,体質が弱く,疲労しやすいもので,この際の帯下はしばしば米のとぎ汁様といわれております。

当帰芍薬散は,虚証で貧血傾向があり,冷え症で,疲労しやすいものによく,薄い帯下が比較的多い場合,この処方を用いるとよいと思います。当帰芍薬散が効かない時,同様な種類の帯下で加味逍遥散が有効なことがあります。

八味地黄丸は,比較的体力の低下した人で,下腹部が軟弱,夜間頻尿のある場合の帯下によいといわれております。老人性膣炎に使う場合が多いようです。老人性膣炎は膣粘膜の萎縮性変化に炎症性変化が加わったものですが,八味地黄丸は炎症性変化の改善と同時に軽度の萎縮性変化も改善していることを,癌研附属病院の陳瑞東が細胞像の変化から証明しました。

現代医学からみた外陰掻痒症

次に外陰掻痒症について考えてみたいと思います。これは皮膚掻痒症の中で,外陰に掻痒が限局している場合であります。皮膚掻痒症は痒みの原因となるべき発疹など皮膚の変化がみられなくて,掻痒感だけあるものをいいます。好発年齢は高齢者といわれておりますが,小児や成人でも起こりえます。外陰に掻痒感を訴える場合,必ずしも単純な外陰掻痒症ではなく,肝炎,糖尿病といった内科的疾患など複雑な背景を持っていることがあります。また,そのほかの疾患から二次的に掻痒感が生じていることもあります。とくに糖尿病では真菌症の合併が掻痒を一層強くします。  最近住目されているSTD(性行為感染症)は,しばしば掻痒症の原因になります。これは疥癬,虱, トリコモナス,あるいは非淋菌性クラミジア感染など,多くの疾患を包含するものであります。そのほか使用した洗剤,薬剤, 生理用品,下着,とくに化学繊維によるものに刺激されて生じた変化や温疹など,外陰掻痒性の皮膚疾患カ掻痒の主な原因となっていることもあります。虱などは戦中,戦後に多かったのでありますが, 一時ほとんどみられなくなりました。ところが,ここ数年の間に再び増加しているといわれておりますから注意が必要です。  元来疼痛性の疾念である外陰へルペス尖圭コンジロームなどで掻痒を訴えたり,また肥満の場合,股擦れ(間擦疹)による皮膚の二次変化のこともあります。  高齢者の低脂肪状態からくる皮膚乾皮症なども増加しているといわれており,この場合は冬期や入浴の時に掻痒が強くなります。帯下が多くて,それが刺激になって二次的に外陰の温疹あるいは掻痒をきたしていることもあります。  このように外陰掻痒症には,内因としての疾患,外因としての疾患が関与していることが多いので,その診断にあたっては,単に患者の訴えのみに迷わされず,現代医学的方法で検討すべきであります。

 治療は,通常局所の止痒を目的とした抗ヒスタミン剤,中枢性掻痒閾値の低下に対し精神安定剤,それから局所外用剤としては抗ヒスタミン剤の軟膏を使用します。湿疹化にはステロイド軟膏,あるいは非ステロイド軟膏を用いますし,真菌症には抗真菌剤, トリコモナス膣炎による場合には抗トリコモナス剤など,その原因疾患に合わせて選択します。と同時に爪などで引っ掻いて,皮膚に傷をつけないように注意します。しかしこれらの治療でも効果を示すとは限らず,むしろ難治性のことが多いのです。

東洋医学からみた皮膚症状

 東洋医学的考え方では,皮膚の変化に対しでも,これを体の不調和の現れと考え,局所の病変も全身的治療によって解決しようとするわけであります。その際の漢方方剤の選択は,とくに陰陽,虚実,気血水といった東洋医学的概念を尺度とします。  陰陽ですが,とは新陳代謝が衰えて体カも弱く,冷え症で,症状は陰に隠れて体表に著しく現れてこない状態をいいます。これに対して陽とは新陳代謝が盛んで体カもあり,熱性で,症状は活発で体表に現れてくる状態であります。  一般に湿疹の場合,症状が夏期に悪化するものは陽の湿疹であり,石膏,黄連などの冷やす薬物が用いられますが,黄連解毒湯などはこのよい例であります。それに対して冬期に悪化するものは陰の湿疹であり,附子,当帰など温める薬物が用いられることが多いようであります。当帰飲子,八味地黄丸などはこの例であります。  次の虚実でありますが,は体質が虚弱であり,攻撃の薬剤はあまり用いません。とは,体カが旺盛であって,攻め下す薬剤を用いることが多いわけであります。  次に気・血・水ということですが,気は漢方でいう血や水を統括するというように考えられます。の巡りが悪いものは気剤の適応であります。とくに外陰掻痒症は,本質的に精神的,心理的影響を受けやすく,実証では柴胡加竜骨牡蠣湯,虚証では桂枝加竜骨牡蠣湯を投与すると有効な症例もあります。とは,静脈のうっ血,または出血などを意味します。毛細血管の拡張とか,紅斑などであります。病変が慢性になりますと瘀血といわれます。静脈血流うっ血状態を生じ,駆瘀血剤の適応、となります。とは,水分の偏在で「湿」ともいわれます。局所の浮腫とか水泡,紅斑,丘疹,滲出液,びらんなどを意味しております。これらは利水剤,または発表剤を用いることにより,局所の水分の偏在が改善されます。皮膚の乾燥,落屑ないしは湿潤も同様であります。

外陰掻痒症の漢方療法

 掻痒症の場合に発疹の有無を検討し,掻痒症だけか,あるいは二次変化による掻痒かに分けるとよいと思います。さらにほかに原因があるのかないのか,もし原因がある場合は,その原因に適応すべき薬剤をまず使用するのは当然であります。一般的な掻痒症に対する漢方薬は,若年者には温清飲黄連解毒湯,高齢者には当帰飲子八味地黄丸真武湯などを用います。即効を期待する場合には,抗ヒスタミン外用薬との併用を行います。  掻痒感のため夜間の睡眠障害があれば,睡眠剤との併用も考えるべきでありましょう。

 当帰飲子は, とくに発疹もなく,ほかに原因がない単純な外陰掻痒症に用いるとよく,高齢者であり,痩せ型で,腹筋は軟弱,皮膚は乾燥し,掻痒感が強い場合に有効であります。

温清飲は,この中に地黄が含まれておりまして,これは皮膚の乾燥,熱感,掻痒に有効であり,皮膚病一般に用いられるのであります。地黄の有効な腹証としては,胸脇苦満,すなわち胸から季肋下にかけて自覚的に充満感があり,この部分を圧迫しますと,抵抗と圧痛を訴える状態であります。そのほかに,臍部における腹部大動脈拍動が充進しているもの,下腹部軟弱なものがその証といわれております。

 温清飲の有効な場合は,皮膚は乾燥し赤みを帯び,灼熱感があり,掻痒感が強く,軽い落屑を伴い,引っ掻くと粉がこぼれるような状態といわれております。

黄連解毒湯は,温清飲の有効な症状と似ておりますが,温清飲を用いるような患部の乾燥がない場合には,この処方がよいようであります。

真武湯の場合には,体格,体質がきわめて弱<,全身的に冷えやすく,新陳代謝の衰えたものが適応になります。皮膚の痒みを主症状として,皮膚自体の変化は外見上なく,痒み自体もそれほど強くない場合です。ほとんど高齢者であることが多く,胃腸虚弱なものに用いるとよいといわれております。

 女性では,一般に月経前に皮膚の病変の悪化をみることがあり,これには当帰芍薬散散が奏効することがしばしば経験されております。

 ひと通り漢方薬処方を述べましたが,漢方薬は複数の構成成分からなっておりまして,西洋薬のような副作用はほとんどないといえますが,随証療法が基本ですから,証が合わない時は,下痢,悪心,胃部の不快感など,消化器系の症状をきたすことがあります。たとえば虚証の人に桃核承気湯を与えますと,下痢をすることはよく知られております。また長期連用する時には,甘草を含む製剤では,血清カリウム,あるいは血圧を時に測定して,偽アルドステロン症に注意すべきでありますが,実際上そのような報告はほとんどありせん。これは漢方におきましては,甘草は,他の構成生薬の調和をはかり, また甘味剤として配合されている場合が多いからであろうと考えられます。むしろ複数の漢方薬を併用する場合は,甘草の重複に注意すべきと思います。

参考文献

1 )松田邦夫,稲木一元:臨床医のための漢方, p.291, p.289,カレントテラピー,1987 2 )陳瑞東,荷見勝彦,他:老人性臆炎に対するツムラ八味地黄丸の有効性について.産婦人科漢方のあゆみ, 4:6 1-66, 1987

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