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めまい(眩暈)



矢数 圭堂  日本漢方医学研究所/理事

めまいは,日常の診療の実際によくみられる症状の一つであります。めまいを起こす原因としては,内耳や目の疾患,神経症,胃下垂症,高血圧症,低血圧症,血の道症,脳の貧血と充血などが考えられます。めまいに対してよく用いられる処方について解説いたします。

頻用処方の解説

黄連解毒湯:この処方は『肘後方』と『外台秘要方』に出てくる処方で,黄連,黄芩,黄柏,梔子の四つの薬味から成っております。炎症と充血のために顔色が赤く,のぼせ,不安,心悸冗進などの症状があり,気分がイライラして落着かないものに効果があります。高血圧や脳充血などの場合で,めまいがするというものに応用されます。

三黄瀉心湯:これは『金置要略』に出てくる処方で,黄連,黄芩,大黄の三つが組み合わされたものであります。この処方は,前の黄連解毒湯と同じような症状があって,便秘の傾向のある場合に用いられるものであります。

加味逍遥散:これは『和剤局方』という本の婦人諸疾門,すなわち婦人病に用いる処方の記載されている中に出てくるものであります。処方内容は,当帰,芍薬,白朮,茯苓,柴胡,牡丹皮,山梔子,甘草,生姜,薄荷葉の10種の組み合わせからできております。この加味逍遥散は,小柴胡湯を用いる少陽病の虚証のものに用いるとされており,大体において虚証で疲れやすく,肝臓の障害などを伴い,いろいるの神経症状を訴えるものであります。腹診により右の季肋下に少し抵抗と圧痛を訴えるものであります。このように加味逍遥散は虚証の肝障害,更年期障害,その他の婦人科的疾患によって起こる神経症状に用いられます。

五苓散:『傷寒論』と『金匱要略』に出てくる処方で,沢瀉,猪苓,茯苓,朮,桂枝の五つから成っております。五苓散は水毒を治す作用があるといわれておりますが,水毒とは水分の代謝異常の意味で,口渇,尿不利,嘔吐,頭痛,めまいなども水毒が原因と考えられるものであります。腹部は軟らかい方で,胃内停水,すなわち心窩部に振水音が認められます。

柴胡加竜骨牡蛎湯:これは『傷寒論』に出てくる処方でありまして,柴胡,半夏,茯苓,桂枝,黄芩,大棗,人参,竜骨,牡蠣,生姜,大黄の11種の薬物により構成されております。柴胡加竜骨牡蛎湯は体質的には実証で,やや肥満し,上腹部が膨満し,胸脇苦満を認め,腹部の,とくに臍の上に動悸を認めることが多く,のぼせ,動悸,めまい,不眠などの症状があり,驚きやすく,あるいはいらいらして怒りやすく,気分が変わりやすい,はなはだしい時は狂乱状となり,便秘の傾向があるものであります。高血圧などがあってこれらの症状を呈するものに応用されます。

真武湯:これも『傷寒論』の処方であります。処方内容は茯苓,芍薬,朮,生姜,附子の五つから成っております。真武湯は少陰病を代表する処方で,新陳代謝が衰え,水分が胃腸に停滞し,尿不利,腹痛,下痢,めまい,動悸などの症状があります。腹部は軟弱で,ガスのために膨満し,脈は沈んで弱く,全身倦怠感甚だしく,手足は冷えやすく,全体的に生気に乏しいものを目標といたします。尿は澄んでいて濁りがなく,下痢の状態は水様便で裏急後重はありません。このような症状があって血圧の低いものに応用されます。

沢瀉湯(たくしゃとう):これは『金置要略』に出てくる処方で,沢瀉と朮の2味から成っております。沢瀉湯は急激に起こった激しいめまいに効果があります。めまいの状態は,暗室の中にいるような,あるいは船が揺れているような,あるいは霧の中にいるような揺れ方をするといわれております。静かに寝ていても天丼が揺れるように感じるものに効果があります。この沢潟湯のように薬味の少ないものは,症状が急激なものに適するということができるのであります。

当帰芍薬散:『金匱要略』にある処方で,当帰,川芎,芍薬,茯苓,朮,沢瀉の6味から成っております。当帰芍薬散は虚証の体質で,貧血,腹痛,月経不順,足の冷え,全身倦怠,疲労感などのあるものに用いられる処方であります。筋肉の緊張は弱く,痩せ型で,色自で,脈も沈んで弱く,腹壁は一般に軟らかく,心窩部に振水音を認めることが多く,頭痛,めまい,耳鳴り,肩こり,腰痛,心悸克進などを訴え,尿は近くて多く,時に浮腫を認めることもあります。妊娠中や産後のめまいに応用されるものであります。

桂枝茯苓丸:『金匱要略』の処方で,桂枝,茯苓,牡丹皮,桃仁,芍薬の5味の薬物の組み合わせから成っております。これは当帰芍薬散よりは実証で,下腹部に抵抗圧痛があり,赤ら顔で,脈は緊張があって沈んで遅い場合が多いようであります。主訴はのぼせ症で,頭痛,肩こり,めまい,足の冷えを訴えるもので,高血圧の傾向のあるものに用いられます。

半夏白朮天麻湯:これは『脾胃論』という書物に記載された処方で,半夏,白朮,茯苓,陳皮,蒼朮,麦芽,天麻,神曲,黄者,人参,沢瀉,黄柏,乾姜,生姜の14味が含まれております。胃下垂,胃アトニーなどのある体質者に起こるめまいに用いられるものであります。体格は痩せ型で,貧血性,胃内停水があり,腹部は軟弱なものが多いようであります。主訴はめまい,頭痛,嘔吐の順で,さらに肩こり,背の張り,足の冷えを訴えます。血圧は低いものが多く,食後に体がだるくなり,眠くなるというものが目標になります。低血圧症,メニエール症候群,胃下垂,胃アトニー症などに応用されます。

呉茱萸湯(ごしゅゆとう):『傷寒論』『金匱要略』の処方で,呉茱萸,人参,大棗,生姜の4味から成っております。呉茱萸湯は,前述の半夏白朮天麻湯と似た症状を呈するものでありますが,主訴は嘔吐,頭痛で,頭痛の発作時にめまいを起こすものであります。手足が冷え,冷汗が出て,脈は沈んで遅く,今にも死にそうだと訴えます。半夏白朮天麻湯ほめまいが主症状で,呉茱萸湯は嘔吐,頭痛が主症状であるという点で鑑別します。

女神散(にょしんさん):この処方は浅田宗伯の作ったものであります。処方の内容は当帰,川芎,白朮,香附子,桂枝,黄芩,人参,檳榔(びんろう),黄連,木香,丁香,甘草,大黄の13味が入っております。使用目標としてはのぼせとめまいであり,脈と腹はそれほど虚してはいないものに用います。更年期障害,血の道症,産前産後の自律神経失調症などに用いて精神安定剤のような作用があります。

釣藤散:これは『本事方』という書物に出てくる処方で,釣藤,橘皮,半夏,麦門冬,茯苓,人参,防風,石膏,菊花,生姜,甘草の11種の生薬により構成されています。神経質で頭痛,めまい,肩から背にかけてひきつれるように痛み,眼球結膜が充血し, うっとうしいものに用います。朝方頭痛がすることを目標とすることもありますが,必ずしも決定的なものではありません。高血圧や動脈硬化症,メニエール症候群などに応用されます。この処方の中に入っております菊花はめまいを治す作用があります。曲直瀬道三の『啓迪集』という本には老人の枕に菊花を入れるように書いてあります。

症例

症例1:五苓散の治験例:57才の婦人,47年8月の初診で,主訴は5月の初めからめまいがおこり,その当時は血圧も上昇して180 mmHgくらいあったとのことで,某医大でメニエール症候群の診断をつけられたとのことです。食欲は正常で,便通は秘結しがちとのことです。頭重,肩こり,悪心,口渇を訴え足がほてるといいます。舌に白苔があり,腹部は軟らかで抵抗, 圧痛はありません。初診時の血圧は134/80mmHgでした。そこで口渇,頭痛,めまいを目標として五苓湯を与えたところ, 10日間の服用で口渇,めまい,頭痛が消失し,さらに20日分の服用で肩こりを残すのみとなりましたので,五苓湯加葛根としました。その後はますます経過良好で足のほてりもとれ,自ら進んで仕事をするようになり,以前と比べて別人のようであるとのことでした。

症例2:柴胡加竜骨牡蛎湯の治験例:72才の婦人,初診は昭和44年11月, 4年来の高血圧で収縮期血圧が240 mmHgまで上昇したことがあるということであります。心肥大があり動悸,息切れを訴えます。頭痛,肩こりはありませんが,めまいがあるといいます。胃下垂で胃が変形しているといわれたそうです。食欲がなく,便通はI日1回,睡眠は安定剤を服用して4時間くらいとのことです。手足が冷え,手がふるえます。唇や声もふるえると訴えております。体格は痩せ型で,顔色は普通,脈は弦で臍の左側に博動を触れ,臍の上に圧痛があります。舌には白苔が著明です。初診時の血圧は160/90 mlnHgでした。柴胡加竜骨牡蛎湯20日分で声のふるえと手のふるえがとまり, 血圧は130/80 mmHgとなり, 1ヵ月後には頭痛もめまいもとれ, 食欲も良好となり,2ヵ月後には降圧剤を中止しましたが,その後も血圧は130/80mmHg前後に安定し,全身状態も好転しました。

症例3:血の道症に対する加味逍遥散の例:これは私の父の治験例であります。41才の主婦で痩せ型,貧血気味で頼にシミがあります。1年前から生理がないことがあるとのことです。その時に頭痛,めまい,首筋のこり,乗物酔いなどがあり,不快の時は全身に汗が流れるほどに出て気分が悪くなるとのことです。少しのことにも腹が立ち,興奮して物事が気になつて仕方がないと訴えます。心窩部が薄く緊張しています。加味逍遥散10日分の服用で諸症状が好転し,40日で顔色もよくなり,シミもとれ,生理も順調になったとのことです。

症例4:血の道症に対する女神散の治験例:これも父の治験例です。56才の主婦,初診時の患者は一見放心状態で,自ら容態を訴えることをしませんでした。付添いの夫の述べるところによれば,以前は一家中で一番の働き手であったそうですが, 1年前から気持が悪いといってふさぎ込み,箒1本手にしなくなったといいます。一室に閉じこもっていることが多くなり,その他の訴えとしては頭重,のぼせ,めまい,肩こり,寒気などで,大学病院では神経衰弱といわれ,治療を受けましたが治らなかったということです。栄養もよく,顔は赤い方で健康そうに見え,脈は沈んで心窩部は硬く,臍の上に動悸が亢ぶっています。更年期の血の道症で,のぼせ,めまいを主訴とするものとして女神散を与えましたところ, 1ヵ月で気分が開き, 5ヵ月でまったく元のようになりました。

症例5:大塚敬節先生の治験例です。58才の婦人,ここ数年来疲れがひどく,いつも頭が重く,めまいがして朝から眠いとのことです。脈は小さく弱く,腹は軟弱で,心富部に振水音を認めます。血圧は98/48 mmHgです。これに半夏白尤天麻湯を与えると食欲が非常に出て,10日ほどでめまいがしなくなりました。食べすぎると眠くなるが,食事を控えていれば以前ほど眠くなくなり,頭も軽くなったということです。血圧も108/52 mmHgとなり,この薬を飲んでいれば元気でいられるといつているとのことです。

症例6:父の治験例です。4才の婦人で, 4年前から毎月1~ 3回猛烈な頭痛とめまいと嘔吐を伴う発作を繰り返していたということで,大体3日3晩苦しみ通しであるといっております。初診の前の日は3回発作があって,月の半分は床の中で過ごしていたということです。前額部から脳天にかけて痛むということです。胃腸が弱く,食欲もなく,冷え症で風邪をひきやすく,疲れやすく,脈も腹も軟弱で心窩部がつかえ,胃内停水が認められます。半夏白朮天麻湯により, 1ヵ月間に2回軽いめまいがありましたが床につくほどではなく, 5ヵ月間服用して4年来の頭痛とめまいが全治しました。

症例7:呉茱萸湯による治験例(父の治験例):60才の婦人, 猛烈な頭痛と, 繰り返す嘔吐で夜を明かしたということです。頭頂部とこめかみのところが痛み,手拭いで鉢巻をして床の中で呻吟し,もだえ苦しんでいました。目をあけるとグラグラとめまいがします。脈は沈んで,かすかに遅く打っています。顔面は少し紅潮し,不眠のため眼球結膜は充血気味で,腹診すると心窩部が膨満して何か停滞している感じです。これを押しますと不快で吐き気を催します。舌は湿潤して,手足は冷えています。体全体が自分のもののような気がせず,苦しくて身の置きどころがないといっております。これに呉茱萸湯を与え, 1回分服用すると十数分で霧が晴れたように頭痛は去り,吐き気はやみ, 2時間後には腹臥位で煙草が吸えるようになり,呉茱萸湯2日分ですっかりよくなりました。

症例8:めまい,頭痛,ノイローゼに対する釣藤散の治験例(父の治験例):63才の老人で, 5年来のめまいと頭痛とゲップを主訴として来院した患者さんです。大学病院で検査を受けましたが,原因不明でノイローゼと診断されたそうでぁります。体は小さく痩せておりますが,顔色は赤くのぼせています。脈やおなかは軟らかい方で,血圧は低い方です。釣藤散を与えましたところ10日分飲んで軽くなり,20日後にはさらに好転し, 5年来の頭痛,めまい,ゲップがまったく治ってしまいました。そして見違えるほど体力がついてきました。この処方の中の釣藤はカギカズラで,これに合まれているリンコフィリンは末梢血管を拡張して血圧を下げる作用があるということであります。

 以上13の処方について申しあげたわけでありますが,これを東洋医学的に虚実にわけて考えてみますと,実証に使う処方としては,黄連解毒湯,三黄瀉心湯,柴胡加竜骨牡蠣湯,沢瀉湯,桂枝茯苓丸の五つがあります。虚証の場合の処方としては,加味逍遥散,真武湯,当帰芍薬散,半真白朮天麻湯,呉茱萸湯,釣藤散の六つであります。五苓散女神散はその中間の証と考えられると思います。以上申しあげました13の処方は,東洋医学的な気。血・水の調和を保つということが主眼となっておりまして,気血水の調和によつてめまいが治つてゆくと考えられるものであります。以上,めまいについての漢方治療のお話を申しあげました。

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