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ステロイド増強・副作用軽減 (漢方治療)



丁宗鉄 北里研究所附属東洋医学総合研究所研究部門長

 近年,漢方薬について科学的な角度から検討が加えられ,その作用機序が明らかにされつつあります。それとともに副腎皮質ホルモンなど西洋薬との併用,相互作用も徐々に解明されてきました。現在の段階でそれらの結果を総合しますと,小柴胡湯をはじめとして伝統的に免疫学的背景を持つ疾患に臨床応用されてきた漢方薬に,やはり免疫調節活性や副腎皮質ホルモンの副作用を軽減する効果があることが示されています。  そこで,これらの新しい研究結果をもふまえて,膠原病など免疫異常を伴う疾患への漢方薬の臨床応用と副腎皮質ホルモンとの関係について解説してみようと思います。  副腎皮質ホルモン剤,つまりステロイド剤と漢方薬を併用することは,もちろんごく最近に提起されたテーマです。なぜならば漢方薬は長い間東洋において西洋医学とはほぼ没交渉的に存在してきましたので,両者は併用される機会があまりなかったからです。漢方の古典をいくらひもといてみても,併用についてのガイドラインはでていません。ましてやステロイド剤のように第二次世界大戦後に登場してきた,いわゆる新薬については経験が全くありません。第一線の臨床家の鋭い臨床観察によってのみ,はじめて併用の道が聞かれるのです。

 ステロイド剤はそれ自体,いわゆる新薬ですが,活性そのものは体内に本来存在しているものです。生体がストレス(外力)たとえば外傷・精神的ショック・気候の変化・感染・過労などの刺激を受けますと,内臓神経を経て副腎髄質は興奮して,血中に過剰のアドレナリンを放出します。それに対応して脳下垂体前葉のACTHが増産され,それが副腎皮質を刺激して糖質代謝,あるいは鉱質代謝に関与する多くのホルモンを分泌します。

 副腎皮質から血中に放出されたコーチゾンデオキシコルチコステロンなどのステロイドによって生体の抵抗力が強められ,ストレスに対応できるわけであります。  また,ステロイド剤はリンパ球による過剰な細胞性免疫反応を抑制して抗炎症作用を発揮します。また細胞膜安定化作用,細胞内Cyclic AMP増加作用などにより,アレルギ一反応,気管支平滑筋の収縮を抑制します。

 これらの効果のため,膠原病など免疫異常を伴った病態の改善,喘息、アレルギー疾患の治療に頻用されるようになってきました。

ステロイド剤の副作用

 しかしながら, 大量かつ長期にわたるステロイド剤の併用はかえって体の内部環境を乱したり,破壊させることもあります。ホルモン環境が真っ先に影響を受けます。自己の副腎もホルモン産生が止まり,萎縮しはじめます。そのため炎症が急性期を過ぎた場合は,速やかに漸減量法を開始すべきであります。しかし,実際,臨床的には漸減量法に入ると,病態が再燃することもよくみられ,治療が壁につきあたってしまいます。腎炎,ネフローゼ, リウマチや膠原病, 喘息などの重症患者を抱えている臨床家なら誰でも,ステロイドの副作用とその効果との板挟みになった経験をもっていることと思います。  それにもかかわらず,ステロイド剤は難病といわれる膠原病などの疾患の症状の改善,病状の軽快に卓効を示します。現状の医療にとって極めて価値のある楽であります。ステロイド剤の出現により,治療法のなかった多くの病人の苦痛が解除され,生命が延長されたことは疑いの余地のないことです。ステロイド剤の効果はそのままにして,ステロイド剤に使用を最小限にしたり,離脱を容易にする療法の開発は,多くの臨床家の切望するところでした。

漢方薬とステロイド剤の併用  漢方薬とステロイド剤の併用を基礎臨床の両方向から研究に若手したのは,故有地滋近畿大学教授のご業縦であります。  故有地博士らはまず,臨床的に漢方薬との併用療法によってステロイド剤の副作用の積極的除去,離脱困難症例からの離脱が可能であることを観察しました。ネフローゼ,難治性肝炎,喘息,慢性関節リウマチなどの多くの具体的症例を積み重ねて報告を精力的に行いました。併用により副作用の防止が可能であり,自由に思うままにステロイド剤を使用できることも多数例で報告しました。

 さらに,併用療法によって副作用の除去,防止だけでなく,効果の増大も可能であり,ステロイド剤の無効である時,漢方薬を併用すると有効となることも発表しております。

 副作用除去の目的で使用された漢方処方は,桂枝茯苓丸、柴苓湯、柴胡桂枝湯、桃核承気湯、大柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯、加味逍遙散、小柴胡湯、当帰芍薬散、柴胡加竜骨牡蠣湯などです。

 この他,慢性関節リウマチには薏苡仁湯、桂枝加朮附湯、防已黄耆湯、越婢加朮湯、麻杏薏甘湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、疎経活血湯、八味地黄丸も有効であったと報告しています。

 いわゆる柴胡剤が数多く登場していることが1つの特徴といえます。基礎実験でも,柴胡を含む漢方薬がステロイド剤の抗炎症作用を3傍にし,抗アレルギ一作用を増強させることを証明しました。この研究成果については後半で再びふれさせていただきます。また,サイコサボニンを含め,多数の生薬成分にステロイド剤の副作用抑制作用があることを示しました。では,柴胡を含む漢方薬にみられるステロイドの増強作用や副作用の軽減作用について漢方医学的立場から振り返ってみましょう。

柴胡剤とステロイド剤

漢方では外邪,つまり外から生体系を乱す因子が侵入した場合,外表(皮膚などの体表での反応)を侵し,次に実質的外表の延長である内(消化管,呼股器など)に侵入し,そして最後にそれ以外の臓器である実質臓器(肝,腎).リンパ系,筋,骨髄に至ると考えます。そして,この時系列にそって病期を分類しています。

 つまり病気の進行を,発生学的に外胚葉→内胚葉→中胚葉と規定し,それぞれ太陽病,陽明病,少陽病と命名しているのです。

 このうち少陽病期では,免疫担当臓器の障害が中心となります。 少陽病の病状は半表半裏の熱証を呈するので,患者さんは自覚症状としては熱のため口や喉が渇いて苦しく,寒気と熱感が交互にきて,胸がつまったり,苦しい感じやめまい,食欲不振などを訴えます。他党的には舌が白く,心下部,季肋下部に張ったような筋の緊張を伴います。

 このような状態の治療薬剤としては,まず柴胡剤という柴胡を主薬とする方剤が第一適応、となります。中でも小柴胡湯は最も頻用される方剤です。この方剤は歴史的にもよく応用されてきており,単にー剤としての応用の他に種々のバリエーションが確立しており,小柴胡湯シリーズと称されるのがふさわしいといえます。小柴胡湯は他の方剤と組み合わせることにより,その応用範囲はすこぶる広いものとなりえます。

呼吸器系の炎症が特に強い場合には柴朴湯(小柴胡湯合半夏厚朴湯),むくみなど腎機能の低下が合併している場合には柴苓湯(小柴胡湯合五苓散),特に女性で貧血を伴っている場合には柴胡四物湯(小柴胡湯合四物湯),神経の炎症を伴う場合には小柴胡湯合桂枝加芍薬湯が応用されます。特に膠原病は女性に多く, しばしば貧血,皮膚症状を伴うので柴胡四物湯は有用な方剤であります。ステロイド減量効果とこのように, 小柴胡湯シリーズは免疫担当臓器が障害された際に応用さ増強作用れるので,ステロイド剤と併用することによって,本来使用すべきステロイド剤の使用量を減少させることが可能となります。小柴胡湯シリーズはステロイド剤と一種の相乗効果を発揮し,直接的病態生理の改善が期待されます。

補助療法としての漢方

 しかし,現代医療の現場で漢方薬に求められているのは,何も直接的な病態生理の改善ばかりではありません。たとえば,合成抗炎症剤やステロイド剤を長期投与せざるをえなかったため,その離脱が困難になり,かっ副作用も顕著になってくる場合があります。また,痛みが強いために,すぐに漢方薬による治療に切り替えることが困難な場合があります。

 このような症例は広い意味で壊病と考えられます。つまり病気の本来の姿が治療薬,とりわけ誤った治療によって崩されてしまった状態です。そして西洋医薬によってもたらされた壊病に対して,どのように治療のアプローチをすべきかは,現代漢方家に課せられた最大の課題といえます。

 そこでわれわれが最も一般的に行う方法は,当初はこれらのケースに対して漢方薬はあくまで副作用の軽減に徹し,決して治療を目的としないで併用する方法です。ステロイド剤のある程度の減量もこの時点で試みることは可能ですが,あくまで補助療法としての範囲にとどまります。主として“補剤"と称され,陰虚証の治療に用いられる十全大補湯,補中益気湯,六君子場,人参湯など,人參や黄耆、地黄といった生薬の配合されている処方が応用されます。

 これらの方剤は長期にわたる強力な薬剤のため,漢方的には壊病に陥った生体の回復カを地す作用があります。特に食欲の増進,血流の循環の改善,肝機能などの回復が認められています。

 漢方薬が黒子のように西洋薬の裏方に徹して,その作用をひきたたせ,副作用を軽減する応用法こそ,両医薬がそれぞれ特徴を生かして補完し合うことのできる新しい治療スケジュールといえます。   

 そして,ある程度病態が落ち着いた時点で, もう少し漢方が前面に出る治療に切り替えていきます。本格的なステロイド剤の減量,離脱はこの時期から行われるべきでしょう。自己免疫,アレルギー, リウマチ、宿主免疫賦活作用など,治療目的に応じた方剤を選択して対応すればよいわけです。その中心が前にも述べた小柴胡湯シリーズというわけです。

免疫薬理学的研究

 漢方薬が免疫系に及ぼす作用に対する研究は,現在非常に盛んなものとなっています。これは臨床で実際に使用され,アレルギーなどの免疫系の異常に対する治療の有効性などを考えると,必然のことと考えられます。  また,漢方処方の多くが免疫異常に対する治療として頻用されることを考えても当然なのかも知れません。ただし,ここで注意したいのは,病的状態においてのみ薬効が認められるというのが漢方薬の特徴であるということです。正常であろうと異常であろうと一定の薬効が認められる西洋薬とは,この点が違います。また,これが漢方薬の薬理作用を証明する難しさにもなっています。

 膠原病では免疫複合体の除去能の低下が示されていることから,除去能の改普は疾患の軽減,ステロイド剤の減量に結びつくことが期待されます。  これは免疫複合体除去の担い手である網内系の活性化をも意味し,生体の防御能も高めるものと予想されます。そこで筆者らは,新しい分析系を用いて免疫複合体の除去能について検討を行ってみました。  vitroでマクロファージと生薬エキスとを反応させ,免疫線合体との結合を検討いたしました。すると柴胡に強い活性が認められました。  柴胡の活性はサボニンに,中でもサイコサボニンdにのみ強い活性が認められ,サイコサポニンaやcには認められませんでした。しかし, サイコサポニンdも濃度が高くなると,かえって反応は落ちる傾向にありました。サイコサポニンdをマウスの腹腔内に投与して得られた腹腔マクロファージについて検討したところ,サイコサボニンd投与によりマクロファージの免疫複合体能は高められ, ここでもまたサイコサポニン dの活性には至適濃度がみられました。

柴胡剤と免疫複合体

小柴胡湯は肝炎や自己免疫疾患などにしばしば使用され,免疫調節作用としての薬効が示唆されています。そこで, SLE様病態を自然発症することで知られるB/WF1マウスに,細菌のリポ多糖体を前処理しておき,次に小柴胡湯を連日投与しI血中の免疫複合体値を測定しました。細菌のリポ多糖は,免疫複合体のクリアランスを低下させます。水投与のみの対照群や小青竜湯投与群では,免疫複合体の同復が認められませんでしたが,小柴胡湯群では有意に改善が認められました。

 副腎皮質ホルモン剤は膠原病では有力な治療剤でありますが,常にその副作用が問題となります。免疫複合体除去能に関しでも, 副腎皮質ホルモン剤は網内系細胞の Fc-受容体の発現を抑制し, その除去能を低下させてしまうことが報告されています。実際, マウスに副腎皮質ホルモン剤を連続投与いたしますと,免疫複合体の除去能は低下します。

柴苓湯(小柴胡湯合五苓散)を経口投与しますと,除去能は有意に改善されます。

ところが,閉じ除去能の測定でも,非特異的異物除去ともいえるカーボンクリアランスでは,副腎皮質ホルモン単独投与群と同様に,柴苓湯投与群のカーボンクリアランスの改善は認められませんでした。従いまして,柴苓湯の除去能改善は, Fc-受容体の発現などの機序を介するものと権察されます。

 同様に近畿大学の阿部らは,柴苓湯にデキサメサゾンの抗肉芽作用を増強する活性があると報告しています。阿部らは,糖質コルチコイドと漢方処方柴苓湯の併用による抗炎症作用の増強について検討を行いました。

 ラット皮下に綿球を植え込み, 4日間柴苓湯を投与しても有意の抗肉芽作用は認められませんが, デキサメサゾンと柴苓湯を併用すると, デキサメサゾンのみを投与したラットの抗肉芽作用に比べて,その作用は有意に増強されました。また, デキサメサゾンをO.5mg/kg/dayに減量して柴苓湯を併用した場合, デキサメサゾン1.5mg/kg/dayのみ投与したラットと同様の抗肉芽作用が得られ,柴苓湯の併用によって, デキサメサゾンの減量が可能であることを示しました。

 柴苓湯の場合も,動物に対しては免疫複合体の除去や抗肉芽作用に関して何ら影響はありません。ステロイド負荷のような,ある特定の病態には活性が認められるのであります。これが漢方でいう「証」の問姐と関係しているかどうかということは別にして,漢方薬の薬効の特徴を示すものです。

 膠原病は難治性ではありますが,ステロイドなどの強カな薬剤のお陰で急性増悪期をうまく乗り切り,腎炎,血管炎などの合併症がない限り.生命に関する予後はかつてはど悪くありません。それだけに長期間薬剤を連用することにもなり,薬剤の副作用には十分の配慮が必要であります。

この点からも重篤な副作用がなく,効果の期待できる漢方薬は治療薬剤の第一選択として,まず試みる価値があると考えられます。

養生と内因性ステロイド

 漢方では日常生活の管理によって疾病を予防したり,軽いうちに治療することを目指してきました。これを養生と総称しています。ステロイド剤の適応となる疾病における養生の基本は,規則的な生活,あたかも判で押したような正確な日常生活を繰り返すことで,乱れたホメオステーシスのリズムを取り戻すことにあります。

 中でも食事時間の規則性が最も大切であり,規則的に食事をするということは,裏返せば一切の間食,夜食を摂らないことであります。徐々にしても標準体重に近づけることも必要であります。

 自己免疫的状態に陥りやすい体質素因は, 人類が長い間おかれていた飢餓状態にあっても,抗体産生能力が維持されやすいことに通じると考えられます。飢餓状態では抗体産生をはじめとして, 生体防御能力の全般的低下がみられます。かつては一村一民族が飢餓による感染のため,全滅した こともありました。しかし,自己免疫傾向のある個体は元来抗体産生能力が高いため,そのような場合でも死を免れることもできたのではないでしょうか。そのため逆に飽食すると余った抗体産生エネルギーが自己に向けられて,病的状態に陥ってしまいます。

 常にやや低栄養の状態で高めにステロイドが産生される体内緊張状態を維持することが望まれます。この意味からも,体重増加作用のあるステロイド剤は一種の自己撞着的薬剤といえるでしょう。

 また,昼間に起きて活動し,夜は寝るという単純ではあるがメリハリのある生活が何より望まれます。このことは,内因性のステロイドの産生を正常化する上で大切なことであります。

 漫然と漢方薬を服用しているだけでは,効来は不十分です。ステロイド剤の減量,次いで離脱を意図する際には,養生の上でも内因性ステロイドの産生を刺激する配慮が必要であります。

 膠原病の患者の非常に多くは,漢方的養生の基準をはなはだしく逸脱した日常生活を送っています。しかも,それを規則的なリズムに戻すことがなかなかできない性格傾向を伴っています。

 自己免疫疾患は,広い意味での心身症,心身ともにself-controlのできない疾病と定義づけることも可能ではないでしょうか。

 今までは膠原病の免疫系におけるself-control の異常が注目されているのみでありました。漢方治療を行って気付くことは,漢方薬の服用によって心因的なself-controlがつくことであります。ステロイドは日内変動の激しい内因ホルモンです。個体によってその血中濃度も著しく異なることも,最近明らかにされております。内因ステロイドの異常,また治療のためとはいえ,外からもたらされたステロイドの異常を改普する効果を漢方薬が示すということは,漢方薬が単にステロイドの産生調節機構や効果のレベルで作用しているのではなく,生体内リズムそのものにも効いていると思われます。このように,漢方薬の効果もより広い観点から,さらに検証されるべきだと考えられます。

参考文献

1 )有地滋,阿部博子:漢方薬によるグlレココルチコステロイドの副作用除去について.薬物療法, 12:915, 1975 2)有地滋, 阿部博子;サイコの基礎と臨床.Pharm. Medica,刊:37, 1985 3)松本司,丁宗鉄,他:マクロファージの免疫複合体結合能に及ぽす甘遂の作用.和漢医薬学会誌, 5:43 0, 1988 4 )田中盛久,丁宗鉄,他:免疫桜合体除去能に及ぽす漢方方剤の影響(II).和漢医薬学会誌,5: 47 2,1988 5) 阿部博子,他 :糖質ステロイド剤の抗炎症作用に対する柴苓湯の影響.日薬理誌, 78 :465,198

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